22年度の年金支給額は前年比▲0.4%
2022年度の年金支給が15日に始まり、支給額は前年度に比べて0.4%減った。
物価高が進むのに年金額が減るのは、物価と賃金が下落していた昨年までの実績で支給額が決まったためだ。
年金の伸びは物価や賃金より低く抑えるマクロ経済スライドがあり、物価高が続けば高齢者の実質の手取りは来年も減る。
参院選でも争点の一つになりそうだ。
年金額は物価・賃金に応じて毎年度改定
年金の支給額は物価や賃金の動きに応じて毎年度改定され、偶数月に年6回に分けて支払われる。
22年度の改定を踏まえた年金を最初にもらうのは6月で、4月分と5月分をあわせて受け取る。
具体的な支給額は支払う前年の物価変動率と、2年度前から4年度前までの3年度を平均した実質賃金変動率に応じて改定する。
20年度までは新型コロナウイルスの影響があり、賃金面では一時金の支給が減った。
携帯電話料金の引き下げが消費者物価を押し下げた。
21年度から賃金下落に合わせた新ルール
21年度からは物価よりも賃金の下落幅が大きい場合は、賃金に合わせて改定する新ルールに切り替えた。
現役世代の負担能力を考慮する狙いがある。
21年度は賃金の下落が大きく、新ルールが適用された22年度の支給額は前年度より0.4%減った。
モデルケース 月903円の減額
金額ベースで見ると、22年度は会社員らが加入する厚生年金のモデルケース(夫婦2人の場合)で月額が21万9593円と、前年度に比べて903円減った。
年換算で1万円超の減額となる。
4月の消費者物価は+2.5%、消費への影響大か
総務省がまとめた4月の消費者物価は前年同月に比べて2.5%上がった。
ガソリンや電気代、食品など生活必需品の値上がりが大きい。
物価高が進む中での年金の減額は、購買力の低下につながる。
老齢基礎年金の受給者は20年度末時点で3319万6000人に達し、個人消費に与える影響は大きい。
エネルギー価格などは高止まりしている。
ただ来年も物価上昇が続いたとしても、年金が見合うだけ増えるわけではない。
年金額を抑える『マクロ経済スライド』
日本は少子高齢化が進んでも年金制度の財政を持続するため、受け取る年金の額を抑える「マクロ経済スライド」を導入している。
このため、物価や賃金が伸びたとしても、年金額は抑えられることが決まっている。
さらに、マクロ経済スライドは物価と賃金がマイナスになった場合は実施せず、未調整分を翌年度以降に先送りする「キャリーオーバー制度」がある。
年金支給が「払いすぎ」になる部分を、後で調整する形だ。足元では2年連続で先送りとなっており、0.3%分のマイナスが「ツケ」としてたまっている。
仮に23年度が物価・賃金上昇を理由に年金増額となった場合、キャリーオーバーの0.3%分によって増額幅が大きく抑えられる可能性がある。
参院選で年金額の減額は争点か
高齢者の負担感を巡っては、政府・与党が3月に年金生活者向けに5000円の給付金支給を検討したが断念した。
参院選を7月に控え、野党は物価高局面での減額を批判している。
ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏は「年金制度を短期的な理由で調整すると、将来世代との世代間バランスに悪影響を及ぼしかねない。足元の物価高への対策は、給付金などが必要な人にピンポイントで届く施策にすべきだ」と指摘する。
所見
老齢基礎年金を受け取る人は3,300万人。
0.4%でもインパクトは大きい。
年金受給者の3,300万人を敵に回してしまうと、選挙に大きな影響があるかもしれない。
しかし、年金を持続可能な制度として保つには、減らすときには減らさなければ現役世代が潰れてしまう。