年金運用リスクを労使で分担
日立製作所は企業年金の運用リスクを労使で分担する制度をグループ会社に全面導入する。
12万人が対象となる。
積み立て不足が発生して年金財政が悪化するのを避ける一方、企業が運用を担い従業員の資産形成を後押しする。
企業か従業員のいずれかが負担する制度に加え、双方に持続可能な「第3の企業年金」が企業の有力な選択肢として広がる可能性がある。
『リスク分担型企業年金』
日立が全面導入するのは「リスク分担型企業年金」と呼ばれる制度で、国内で2017年1月に創設された。
企業が運用して将来の受取額を約束する「確定給付型企業年金(DB)」は企業の負担が大きく、従業員が運用を担う「確定拠出型企業年金(DC)」は従業員がリスクを負う点などで理解を得るのが難しかった。
リスク分担型企業年金は、確定給付型と確定拠出型の中間的な制度だ。
運用リスクの抑制と従業員への配慮の両立
日立は退職後の給付金のうち6割を占めていた確定給付型をリスク分担型に移行する。
既に本体と主要子会社の一部が19年に導入済みで、独自基金で運用する日立ハイテクなどを除く44の子会社・8万人弱が新たに22~23年度に新制度に移る。
日立企業年金基金に加入するすべてのグループ企業の12万人が対象となる。
日立は新制度への移行に伴い24年3月期に関連費用440億円を計上する。
目指すのは、運用リスクの抑制と従業員への配慮の両立だ。
将来の給付額を約束する確定給付型は運用成績が悪化した場合、企業は掛け金を追加で出すことを求められ業績の悪化要因となる。
一方、確定拠出型は企業の運用リスクがなくなるが、投資知識の十分でない従業員が少なくないなかで老後の資産形成が進まない恐れがある。
企業年金連合会の22年の調査によると、確定拠出型を元本確保型商品のみで運用する加入者が6割以上の企業は14.5%ある。
リスク分担型企業年金は企業が日々の運用を担いつつ、一部の運用リスクを従業員が負うのが特徴だ。
企業は金融危機時のようなリスクに備え、あらかじめ多めに運用資金を拠出する。
想定の範囲を超えて運用成績が悪化した場合、企業は不足分を補填せず給付額を減らして調整する。
逆に運用成績が一定以上に良好であれば給付額が増える可能性もある。
日立の年金債務は1.8兆円、国内最大級
日立の連結ベースの確定給付型の年金債務は22年3月末で約1兆8700億円と国内最大級。
年金資産は約1兆5900億円で、年金債務に対する年金資産の積立比率は約85%と上場企業の平均並みだ。
債券など比較的リスクの低い商品を中心に運用してきたものの、過去にはたびたび運用成績が悪化し、会社側が不足分を補填してきた。
リスク分担型の全面導入で業績への悪影響を抑えられるようになる。
制度が分かりづらく、導入件数は少ない
課題もある。
厚生労働省によると、リスク分担型企業年金の導入件数は6月1日時点で富士通や阿波銀行など21件にとどまる。
ニッセイ基礎研究所の梅内俊樹企業年金調査室長は「確定給付型に比べると制度が分かりづらい面があり、従業員の理解を得るのが難しい」と指摘する。
新制度に移行するには、従業員への丁寧な説明が欠かせない。
日立は今回、従業員に新制度の利点やデメリットなどの説明を徹底し、全面導入の賛同を得ることができた。
年金などの退職給付は人件費の後払いの性質がある。
人件費を人への投資とみなして付加価値を引き出そうとする「人的資本」の考え方が広がるなか、企業は中長期的な成長に結びつけられるような制度設計が求められる。
所見
従業員が12万人もいる日立が導入することで、他の企業にも広まる可能性がある
企業のリスクを抑え、年金運用が効率的になることは良いことだと思う。
低金利の日本ではリスクを取らなければ、資産は増えない。どんどん広めてほしい。