暗号資産(仮想通貨)交換業大手のFTXトレーディングが11日、関連会社130社を含めて日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。
裁判所資料によると、負債額は推定で数兆円にのぼり、仮想通貨業界で過去最大の経営破綻となる。
世界各国で幅広く事業展開しており、連鎖破綻を警戒する声も出ている。
FTXトレーディングによる裁判所への提出書類によると、破産申請した法人の中には日本法人「FTXジャパン」(東京・千代田)とその親会社と関連会社、合計3社が含まれた。米国や欧州、アジア、中東、アフリカなど各国の法人が名を連ねる。
エンロンの再建人に託す
FTX創業者で最高経営責任者(CEO)だったサム・バンクマン・フリード氏は辞職し、後任にはジョン・J・レイ氏が就いた。
米メディアによると、レイ氏は2001年に巨額の不正会計で経営破綻したエンロンの200億ドル超の債務を債権者に返還するための陣頭指揮を取った人物。
バンクマン・フリード氏は11日、ツイッターで「レイ氏が最善の方法を提供する手助けをしてくれる」とつづった。
裁判所への資料によると抱える債権者は10万人以上おり、資産と負債はともに100億(約1兆4000億円)超から500億ドルの範囲内と記した。関係者によると、FTXは顧客から160億ドルの預かり資産があった。
FTXと同時に破産申請し、今回の危機の引き金となった投資会社、アラメダ・リサーチも負債総額は100億~500億ドルだった。
FTXは顧客資産を使ってアラメダに約100億ドルを貸し付けていたことが分かっている。
19年設立のFTXは、個人顧客が21年7月の資金調達時点で100万人超いた。
同年後半にかけての仮想通貨相場の上昇でさらに増えたとみられる。
バンクマン・フリード氏が今年5月に米議会証言
に出席した際の発言によると、22年1月時点で全世界の仮想通貨取引の1割をFTXが処理していた。
金額換算で1日約150億ドルに達する。
累計20億ドル超調達、VC最大の損失か
22年の資金調達時の企業価値評価額は320億ドルに達した。
ソフトバンクグループは傘下のファンドを通じて1億ドル弱を投資していた。
FTXへの出資者は多岐にわたり、相次ぎ損失計上を迫られている。
ベンチャーキャピタル(VC)のセコイア・キャピタルがFTX関連の持ち分の評価をゼロにした。
仮想通貨分野に特化した米投資会社パラダイムも同様の対応をしたと報じられた。
カナダ・オンタリオ州の教員向け年金基金も9500万ドルを投資しており、10日には「純資産総額の0.05%未満に収まっており、影響は限定的だ」と説明した。
米調査会社ピッチブックのアナリスト、ロバート・ルー氏は11日、FTXの破綻は「VC史上最大の資本損失と位置づけられる可能性がある」と述べた。
同氏によるとFTXと米国法人は90超の投資家から累計24億ドルの資金を調達した。
仮想通貨に関連するVCは過去2年間で400億ドルを調達し、資金を投じてきたが「投資の速度は23年にかけてかなり鈍化するはずだ」とみる。
バイナンスCEO、連鎖破綻を警戒
「多くの連鎖的な影響をみることになるだろう」。
米メディアによると、インドネシアでのイベントに登壇した交換業最大手バイナンスのチャンポン・ジャオ氏は11日、FTX破綻と前後してこう述べた。
08年のリーマン・ショック時になぞらえ連鎖破綻に警戒を示した。
「規制当局は当然、より監視の目を厳しくするだろう」とみる。
ジャオ氏は8日、資金繰りに行き詰まったFTXの救済買収の方針を発表したが、資産査定を経て「我々の手に負えない」として撤回した。
11日には「問題はこの3日間で生まれたものではない」と発言した。
FTXの関連会社への不適切な融資や、リスク管理体制を巡り当局の調査が迫るのは必至で、仮想通貨全体への包囲網が強まる。
米有力議員「より強い規則必要」
バンクマン・フリード氏は政界への影響力も伸ばしていた。
21~22年にかけての政治献金額は米ヘッジファンド大手シタデル創業者ケン・グリフィン氏などに次ぐ6位につけている。
FTXのプラットフォームを仮想通貨以外の取引にも広げ、大手取引所の寡占が進む先物市場での新プレーヤーになろうとしていた。
米国では仮想通貨交換所の開示強化や、発行体に十分な準備金を積むことを求めるといった法案の検討が進んできたが、与野党の折衝も進まず停滞していた。
様々な政策課題を抱えるなか「よほどのショックが起こらない限り議員の間で優先順位は低い」(金融のロビイスト)事情があった。
こうした状況でFTX破綻が与えた衝撃は大きい。
金融機関に厳しい姿勢で知られるエリザベス・ウォーレン上院議員は11日、「FTXの破綻は、議会と規制当局が業界と幹部の責任を追及するための目覚まし時計となる」と述べ「より強い規則と執行が必要だ」と法整備を進める姿勢を示した。
米ホワイトハウスのジャンピエール報道官や米議会上院の銀行委員会、下院の金融サービス委員会も10日までに規制強化の必要性を訴える声明やコメントを相次ぎ出した。