「男性は、生活力がないだけに1人の老後は心配だ」といわれる。
しかし男性の生涯未婚率は20%を超えており「そもそも準備して退職後の生活を迎えているはず」とも思える。
退職後に1人で暮らす人、なかでも男性は生活に満足できているのだろうか。
資産運用することはどんな影響があるのだろうか。
こんな点が気になり、2月に行った「60代6000人の声」アンケート調査の結果から、シニア単身世帯の生活満足度を分析した。
60代で単身世帯は3割に
まずは単身世帯がどれくらいを占めているのだろう。
2020年の国勢調査によると、有配偶者世帯の構成比は、女性の場合、30代後半で7割に達し、その後60代までほぼその水準を維持しているが、その後は急落する。
女性の場合、50代くらいから配偶者との離別、死別が急増し、単身世帯が70代で4割弱、80代で7割まで上昇することが背景にある。
一方、男性の有配偶者世帯比率は40代になって6割を超え、70代の8割まで年齢が高くなるにつれて上昇し、75~79歳で80.3%のピークを打つ。
こうした男女のトレンドの違いは平均寿命の差を色濃く反映しているようだ。
そのなかで60代だけをみると、男性も女性も配偶者のいる世帯の比率は7割でほぼ同じだが、単身世帯の内訳はかなり違う。
男性の単身世帯数は203万世帯だが、そのうち未婚単身世帯が120万世帯、離死別単身世帯は83万世帯と圧倒的に未婚単身世帯が多い。
これに対して女性は、単身世帯数は男性より少し多いとはいえほぼ同じ218万世帯で、そのうち未婚単身世帯は59万世帯、離死別単身世帯は159万世帯と、圧倒的に離別や死別の世帯が多くなっている。
男女合わせると420万世帯にのぼる60代単身世帯の生活満足度はどうなっているだろうか。
フィンウェル研究所が行った「60代6000人の声」アンケート調査と照らしてみよう。
上の表では、アンケートの回答者6486人を配偶関係の他、それぞれに同居の子どもがいる、同居の親がいるといった家族構成も考慮して分類した。
それぞれのカテゴリーにおいて、生活全般の満足度を5段階で聞いた結果のうち、「どちらかといえば満足している」と「満足している」のどちらかを選んだ人の比率を「満足比率」として示している。
ちなみにこのアンケート調査の回答者の有配偶者世帯構成比は70.1%、単身世帯比率は24.0%で、国勢調査の60代の結果とほぼ同じになっている。
単身者、生活満足度低く
単身世帯の満足比率は34.6%と有配偶者世帯の50.0%を大きく下回っていた。
しかも子どもと同居していても、親と同居していても単身世帯の満足比率が低くなっていて、配偶者の存在が生活全般の満足度に大きく影響していることが第一の特徴となった。
さらに、総じて男性の満足比率が女性に比べて低いことももう一つの特徴といえるだろう。
第一の特徴と合わせると、60代の単身の男性は満足比率が最も低いという傾向がうかがえる。
ところで、男女比較で、1つのカテゴリーだけ男性の満足比率が高いところがある。
夫婦世帯で親と同居している世帯だ。
夫婦で親と同居する場合には、男性の満足比率が女性より高くなっているが、これは男性の満足比率が高くなっているのではなく、女性の満足比率が大きく低下しているためだ。
親の同居が女性に対して負担を重くし、それが女性の満足比率を下げているとみるのが妥当だろう。
では単身世帯で配偶者以外の同居者は満足度を上げるのだろうか。
表からみる限り、総じて単身のみの世帯と親や子どもが同居する世帯の満足比率はそれほど違いがない。
男性では子どもと同居する世帯、女性では親と同居する世帯の満足比率が、それぞれ単身のみの世帯より高くなってはいるが、それほど大きな差ではなく、配偶者以外の同居者がいることは単身世帯の生活の満足度を引き上げるとはいえそうにない。
それ以外に満足度を引き上げる方策はないのか。
そこで「60代6000人の声」アンケートで聞いた他のいくつかの項目と生活全般の満足度の関係を分析した。
具体的に分析対象にしたのが、①健康水準の満足度②人間関係の満足度③仕事・やりがいの満足度④資産水準の満足度⑤住んでいる都市の規模⑥年齢⑦性別⑧仕事をしているかどうか⑨公的年金を受給しているかどうか⑩子どもが同居しているかどうか⑪親が同居しているかどうか⑫世帯保有資産額⑬資産運用をしているかどうか⑭年間生活費の金額⑮世帯年収⑯資産は自分の寿命をカバーすると思うか、の16項目だ。
分析の詳細を記載するスペースはないが、「有配偶者世帯(4586人)」と「単身世帯とその他(1938人)」の生活全般の満足度に、上記の16項目の影響度を重回帰分析という手法で分析した。
その結果、有配偶、単身のどちらの世帯でも大きく影響していたのは、①健康水準の満足度②人間関係の満足度③仕事・やりがいの満足度④資産水準の満足度⑧仕事をしていないこと⑯資産は自分の寿命をカバーすると思っていること、の6つの項目だった。
最近よく話題になるウェルビーイングの考え方を参考にすると、健康水準、人間関係、仕事・やりがい、資産水準の満足度が生活全般の満足度に影響を与えているという結果は整合的だといえるだろう。
なお、この4つのなかで資産水準の満足度の影響力が強くでており、資産水準の満足度が高いほど生活全般の満足度を大きく高めることを示唆している。
また60代の特徴ともいえるのだが、⑧「仕事をしていないこと」が生活の満足度を高めることも分かった。
さらに⑬保有する資産が自分の寿命をカバーする、という自己評価も生活の満足度につながっていることも分かった。
資産運用で満足度が上昇
注目したいのは、60代の単身世帯だけに強く表れた、⑬資産運用をしていることが満足度を高めているという特徴だ。
これは有配偶世帯には有意に表れなかったことから、単身世帯特有のものといってもいいだろう。
60代単身世帯にとって、資産運用をすることそのものが生活全般の満足度を高めていることは、総じて満足度が低下するシニア単身世帯にとって対策の重要な要素といえそうだ。
もちろん現役時代に資産運用をしなかった人が、60代になってから資産運用を始めるのは簡単には勧められない。
しかし現役時代から少しずつ資産形成を行って、60代になってもそれを継続するような姿勢は単に生活費を確保するということだけでなく、生活の満足度を高める点でも大切になるのではないだろうか。