岸田文雄首相は28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示した。
科学技術費など国防に有益な費用を合算し、省庁横断の防衛費と位置づける。
向こう5年間の装備品などの予算規模と財源確保を年内に同時決着させ、戦後の安全保障政策の転換に道筋をつける。
首相が防衛費の具体的な水準を明言するのは初めて。
東アジアの険しい安保環境を踏まえ先送りすべきでないと判断した。
自民党内には防衛費を賄うための増税に慎重な意見が根強い。
長期にわたる防衛費増を可能にするための安定財源確保にメドをつけられるかが問われる。
首相が28日、首相官邸に浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相を呼び防衛費増額に関する方針を指示した。
GDP比で2%との基準を示したうえで、年末に①23~27年度の中期防衛力整備計画(中期防)の規模②27年度に向けての歳出・歳入両面での財源確保――を一体的に決定すると伝えた。
浜田氏が面会後に記者団に明らかにした。
日本の防衛費は1976年の三木武夫内閣以来、おおむね1%以内を目安としてきた。
ウクライナ侵攻を踏まえ北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が相次ぎ国防費を2%とするよう表明し、自民党が2%への増額論を唱えていた。
防衛省の予算は2022年度当初で5兆4000億円ほどだ。
GDPで2%とするのは防衛省の予算を増額した上で、防衛に有益な他の経費を含める。
公共インフラや科学技術研究、サイバー、海上保安庁といった他省庁予算も加える。
防衛省だけの縦割り体質から脱却し、安全保障を政府全体で担う体制に移行する。
現在のGDPを前提とすると新たな防衛費はおよそ11兆円に達する。
柱となるのは相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有だ。
ミサイルの長射程化や米国製巡航ミサイル「トマホーク」を導入する。
不足している弾薬の購入量を増やすなどして継戦能力も強化する。
歳入に関する年内決着も指示した。
両閣僚に27年度までは財源確保のための一時的な赤字国債発行を容認する考えを示唆した。
歳出改革なども含め財源捻出を工夫するよう求めた。
28日の衆院予算委員会では防衛費の財源に関して余った新型コロナウイルス対策予算を活用することを検討すると明らかにした。
「感染を収束させてコロナ対策として大きく確保していた予算を活用する」と述べた。
政府の防衛費増額に関する有識者会議は財源を「幅広い税目による国民負担が必要」とする提言をまとめている。
政府内では法人税に加えて所得税、たばこ税などの増税で賄うべきだとの意見がある。
一方、自民党の最大派閥である安倍派は財源について「増税で賄うことは公約に盛り込んでいないことに留意すべき」と明記した提言をまとめた。
年末に向けて与党の税制調査会などで具体論を議論する。