日本企業の株式は70代以上の株主が41%を保有
日本企業の株主が老いている。
この30年で70代以上の保有額は全体の1割台から4割台に高まった。
人口構成を超えるスピードで高齢層に偏った背景に若・中年層の日本株離れがある。
国内のリスクマネーが減少に向かっている。
バブルに沸いた1987年。
NTTの株式上場は70万人近い新たな株主を生んだ。
当時は働き盛りの世代が株式ブームを担い、同社の株主の中心は30~40代だった。
35年後の今、同社の株主は推計で60代以上が8割を超える。
「相続などで手放す動きがみられ、10~20年後を見据えた対策が必要だ」。
投資家向け広報(IR)の責任者、花木拓郎IR室長は悩む。
増配実績をビジュアル化したり、若者が多いオンラインの説明会を開いたり、株主確保へあの手この手を尽くす。
家計の所得や資産を調べる全国家計構造調査と、主体別の資金の増減・残高をまとめた資金循環統計をもとに、年代別の日本株の保有額を推計したところ株主高齢化の実態が浮かび上がった。
保有額が最大の年齢は1989年の50代から99年に60代に、2019年には70代以上に移った。
株主高齢化の第1の理由は人口構成にある。
成人のうち70代以上の人口の割合は89年の10%から19年に26%に高まり、自然と株主も高齢化した。
ただ、その間に保有額でみた70代以上の株主の割合は15%から41%に上昇した。
若・中年層が日本株に投資せず、人口構成以上に高齢者に偏るようになった。
高齢者が売却した株式は外国人などが受け皿となり、個人株主比率の低下を招いた。
98年に株式のインターネット取引が本格化し、ネット証券の顧客は比較的若い層、対面証券は高齢者というすみ分けが生まれた。
ところが、ネット証券の草分け、松井証券では現在、70代以上が年代別の売買代金で最大の35%を占めるようになってしまった。
バブル崩壊後、日経平均株価が2009年に大底を入れるまで20年かかった。
その後は右肩あがりで若い層に損失のトラウマはない。
若い層の関心は日本株より上昇力の強い海外株
投資には前向きだが、投資先は日本株に比べて上昇力の強い米国株など海外だ。
海外株を取り扱う証券会社が増え、コストの低い投資信託も普及した。
情報も得やすく、海外株投資はかつてに比べ身近になった。
米国株の営業に積極的なマネックス証券が、年代別に個別株の約定金額の比率を調べたところ、30代では米国株が58%と日本株を上回った。20代や40代でも米国株の比率は4割を超える。
企業は、日本の個人マネーの争奪でも海外勢と競わなければならなくなったわけだ。
投信の売買を分析すると、12年以降の累計では海外株を10兆円近く買い越している。その間、日本株は売り越しだ。
日本株の魅力は見劣りする。
過去10年の日経平均採用企業の売上高の伸び3割に対し、米主要500社は5割だ。
最低投資単位引き下げや相続税優遇など課題に
成長力も稼ぐ力も高い。投資の手軽さも米国が上だ。
足元の株価ではファーストリテイリングの株主になるのに800万円必要だが、米アップルは2万円。
株主数が増える事務コストを嫌って最低投資金額を下げてこなかった。
相続税も株式に不利だ。
上場株は時価が評価額になる。
時価の80%が目安の「路線価」で評価する不動産のような優遇措置がない。
高齢株主は相続前に株を売って不動産を買う動機が生じやすく、若い層に引き継がれない。
岸田政権は「資産所得倍増」を打ち出し、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化を進める構えだ。
40代以下の利用が増える可能性が高く、手を打たなければ個人マネーはますます海外に向かう。
国内にリスクマネーを循環させる取り組みが欠かせない。