サービス利用、アプリ経由がサイトより3割高い例も
動画配信などネット上の有料サービスで、登録・購入方法によって料金が異なる「二重価格」が広がっている。
パソコンなどからサイト経由の方が、スマートフォンのアプリ経由より安い場合が多い。
サービスを提供する事業者が、アプリの決済を握る米アップルや米グーグルへの割高な手数料負担を避けるためサイト経由での利用を促している。気づかずに高い利用料を払う消費者もいる。
「毎月の差額は370円とはいえ、2年も払い続けてたなんて……」。横浜市の会社員男性(38)は動画共有の「ユーチューブ」で広告表示をなくす「プレミアム」をiPhoneのアプリから申し込み、毎月1550円払ってきた。
サイトから登録すれば1180円で済むと知ったのは最近のこと。
「同じサービスなのに、支払い手段が違うだけでなぜ3割も高くなるのか」と困惑する。
課金額が多い国内上位10アプリ(米データエーアイ調べ)の料金形態を調べたところ、動画配信やマッチングなど6件で、サイトから登録や購入した方がアプリからよりも利用料が安かった。
例えばサイバーエージェントのネットテレビ「アベマ」では、有料会員の月額はアプリもサイトも同じだが、個別に支払う有料番組でアプリからの購入料が1割高いケースがあった。
動画共有の「TikTok(ティックトック)」では、投稿者を応援する「投げ銭」に使うコイン70枚分の料金がアプリでは160円、サイトでは120円と40円の開きがあった。
二重価格の理由についてサイバーエージェントは「アプリの手数料を考慮した」と回答した。
アプリ決済握る米アップル・グーグルへの手数料が背景
スマホなどのアプリからコンテンツ購入や課金登録する際、原則としてアップル、グーグルが用意する決済の仕組みを使う。
利用者が100円支払った場合はコンテンツの種類や企業規模によって、10~30円が2社に手数料として入る。
一方、サイト内決済では事業者側が負担する手数料は3%(利用者が100円支払う場合では3円)ほどで済むケースが多い。
事業者にとっては利用者の「申込窓口」がアプリからサイトに変わるだけで、手元に残る金額が最大4割増える計算だ。
サイト経由の支払いが増えるほど、サービス事業者にとっては収益面ではプラスとなる。
ただ、ある事業者はサイト決済の割合は「ごく僅か」といい「本音はサイトから買ってほしいが、アップル、グーグルに配慮して、露骨なアピールはしにくい」と明かす。
米センサータワーによると、世界のアプリ市場は21年の1330億ドル(約18兆円)から26年には約2300億ドルに拡大する見通しだ。
配信基盤のアプリストアはアップルとグーグルがほぼ独占しており、集客力に頼りたいサービス事業者は2社への遠慮もあるようだ。
ただ、関係には変化も見られる。
アプリ手数料などの仕組みを巡り、米エピックゲームズやスポティファイ(スウェーデン)など大手アプリ事業者が2社を相手に訴訟を起こしている。「決済手段が自由に選べない」「手数料率が高い」といった主張だ。
「手数料高い」提訴も 経産省など規制当局も問題意識
規制当局も問題意識を持ち始めている。経済産業省は11月、巨大IT(情報技術)企業に関する文書案でアプリ手数料について「競争が十分働いているとは言えず、アプリ事業者の理解・納得を得られる状況ではない」と指摘した。
こうした環境変化を受けて、2社は譲歩の姿勢も見せる。
グーグルは9月に日本でも外部決済を認めると発表。
アップルも手数料の設定価格の選択肢を従来の10倍の約900通りに増やすと12月6日発表した。
日本経済新聞は二重価格について2社にコメントを求めた。
グーグルは「(サービス事業者は)プラットフォームごとに異なる機能や価格を自由に設定でき、当社は均等性は求めない」とし、アップルは「自社のアプリストアが最良の環境だが、消費者がサイトで支払いたい場合は選択肢があることが重要だ」とした。
マーケティング支援のRepro(東京・渋谷)の稲田宙人氏は「2社の決済ルールは改善してきたが、事業者側の手数料負担は減ってもわずかで、二重価格を解消できるほどの効果はない」とみている。
今後も各国で規制当局の視線が厳しくなり、サービス事業者が収益重視でサイト経由を増やす販売戦略を打ち出すことも想定される。
利用者がアプリからサイトに移行すれば、アップルやグーグルも一段と対応を迫られる可能性がある。