世界各国の利上げ、延べ80回
世界の中央銀行による政策金利の引き上げが2022年1~6月期で延べ80回に達し、過去最多になっている。
なかでも新興国が60回と多い。
高まるインフレを抑制するために利上げが先進国で本格化し、新興国はインフレと通貨安の連鎖を恐れて引き締めを急ぐ。
世界同時に急ピッチで進む利上げにより、金融緩和で膨らんだ株式などのリスク資産からマネーが流出し、景気を圧迫する副作用も顕著になってきた。
国際決済銀行(BIS)が公表する世界の主な38カ国・地域の政策金利の動向や、最近の各国中銀の発表を基に日本経済新聞が集計した。
世界同時、かつ急ピッチの利上げ
今回の利上げ局面の特徴は、世界で同時にかつ急ピッチで進んでいる点だ。
新型コロナウイルス危機の20年、世界は一斉に利下げで対応した。
それから2年余り。
コロナ下の供給制約にロシアのウクライナ侵攻が重なりインフレが加速。
各国の中銀は急旋回する形で利上げを迫られている。
過去の危機を上回る利上げ回数
22年1~6月は利上げが80回に達し前年同期の約7倍になった。
アジアを中心にインフレが進んだ11年(56回)や、リーマン・ショック前の好景気に沸いた06年(65回)を上回る。
利下げは、移動制限などで経済の先行きが不透明な中国、欧米の経済制裁が厳しさを増すロシアなどに限られ、「世界同時利上げ」の様相となっている。
00年以前は新興国のデータなどの遡及が限られるが、1970~80年代のオイルショック時以来の世界的な引き締め局面とみられる。
年間で好景気だった06年の利上げ回数(119回)に迫る可能性が高まっている。
先進国は2006年以来の利上げペース
先進国は1~6月に20回利上げし、06年(28回)以来の多さだ。
米連邦準備理事会(FRB)は今年3月に利上げにかじを切り、6月には1994年以来の水準となる0.75%の利上げを決めた。
英イングランド銀行は今年、すべての会合で利上げを決め、6月に政策金利を1.25%にした。
欧州中央銀行(ECB)は7月に11年ぶりの利上げに踏み切る。
新興国は過去最多を大きく上回る
新興国は過去最も多かった08年(50回)を大きく上回るペースで引き締めを進めている。
米国の急速な利上げはドル高・新興国通貨安になりやすい。通貨安は輸入物価の上昇を通じてインフレに拍車をかける。
「(新興国の)マクロ経済環境は厳しい状況にある」(米運用大手ティー・ロウ・プライスの花井ゆき子氏)。
マレーシアは5月、4年4カ月ぶりの利上げに踏み切った。通貨リンギが対ドルで下落し、米国の利上げと歩調を合わせる。
日本は利上げに加わらない
日銀はこうした利上げの動きに加わらないが、金利差拡大による円安圧力が今後も強まる。
リスクマネーの逆回転
世界的な金融引き締めはリスクマネーの逆回転を引き起こしている。
21年末比で米ダウ工業株30種平均や欧州株価指数は17%以上下がったが、17日までの週間下落率だけをみると5%近く下落し、足元での下げが特にきつい。
S&P500種株価指数は週間で約6%下げ、新型コロナウイルス危機後で最大の落ち込みになるなど、記録的な下げになった。
緩和マネーに支えられていた低格付け社債の指数や、新興国債券(ブルームバーグ指数)も軒並み下げている。
米調査会社EPFRによると、年初から5月までに新興国債ファンドから570億ドル(約7兆6800億円)が流出した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏は「投資家はできるだけリスク資産の保有を減らそうと現金比率を高めているが、全てを現金にできるわけでもなく難しい局面だ」と指摘する。
景気後退シナリオが現実味
金融市場の動揺の先に浮かぶのは、現実味を増す景気後退のシナリオだ。米コンファレンス・ボードが17日発表した世界の最高経営責任者(CEO)や経営幹部を対象とした調査によると、CEOの60%以上が1年半以内に景気後退入りを想定しているという。
5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、先進国は55台と好不況の分岐点となる50を上回る。
しかし、中国の都市封鎖などもあり新興国では3カ月連続で50を割り込む。
市場では「FRBを中心に景気を犠牲にしてでもインフレを抑え込もうとする動きが続く」(大和証券の山本賢治氏)との見方が広がる。
世界景気を腰折れさせずにインフレを抑えられるか、難しさは増している。
所見
インフレ対策のため過去最多ペースの世界的利上げ。
日本は加わらないが、この流れはインフレが落ち着くまでは止まらない。
ロシア戦争が落ち着き、景気後退すれば、インフレは収まる可能性が高い。
その後、緩和の波が再び訪れる。
やはり、今は仕込み!