政府は6月1日、少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を公表する。医療や介護の歳出抑制、社会保険料の上乗せでどの程度の財源を確保するか具体案を示さず「年末までに結論を得る」と記す。岸田文雄首相は31日、2024年度からの3〜5年間に必要な予算を年3兆円台半ばとするよう関係閣僚に指示した。
素案は1日に開く政府のこども未来戦略会議で示す。戦略方針は6月中旬に閣議決定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映させる。
首相は31日、首相官邸で後藤茂之経済財政・再生相ら関係閣僚と協議した。後藤氏は終了後、追加の予算について記者団に「(事業費ベースで)3兆円を軸に検討してきたが、首相から3兆円台半ばでまとめるよう指示があった」と明らかにした。
首相は将来的な子ども・子育て予算の倍増の大枠を6月にも示す考えを示してきた。1日に公表する素案には30年代初頭までに、こども家庭庁の予算を倍増するか、子ども1人あたりで見た国の予算の倍増をめざすと盛り込む。こども家庭庁が扱う分野の22年度の国の予算額は4.7兆円だった。
「加速化プラン」として26年度までの3年間で大部分を実行し、完了する28年度までに安定財源を確保する。骨格として①28年度にかけて歳出改革を進める②消費税などの増税をしない③経済成長への取り組みを先行させる④すでに定まった予算を最大限活用する――と明記する。
企業を含めて経済社会活動に携わる人たちで広く負担する「支援金制度(仮称)」を新設する。社会保険料に上乗せして支援金を集め、財源として見込む。制度の詳細を年内に固める。医療や介護の歳出抑制を通じて追加負担を実質的に生じさせないことをめざす。
財源確保を巡り、政府内では社会保障分野の制度改革などで最大1.1兆円、すでに確保した予算の最大限の活用で0.9兆円、社会保険料の上乗せ分による支援金で0.9兆〜1兆円をまかなう案を検討してきた。
政府が1日に示す素案にこれらの内容は盛り込まない方向だ。素案には「具体的内容、予算、財源を一体的に24年度の予算編成過程で検討し、年末までに結論を得る」との記述にとどめる。
財源の確保より施策の充実を先行させる。将来見込まれる歳入を償還財源とするつなぎ国債の「こども特例公債」を必要に応じて活用する。子ども関連施策の全体像と費用負担を明確にする新たな特別会計「こども金庫」で発行を計画する。
これまで検討してきた予算の拡充分の3兆円は主に毎月支給する児童手当の充実に回す。所得制限を撤廃し、支給期間を現在の中学生までから高校生までに延長する。第3子以降の3歳〜小学生に月1万5千円配っているのを、対象を0歳〜高校生に広げて3万円に倍増させる方針だ。
育児休業を取得した場合の給付も増やす。年収が一定水準に達するまで本格的な返済が始まらない「出世払い型」の奨学金制度も導入する。学生の納付金による償還を見込んだ新たな債券の発行を検討する。
首相が指示した0.5兆円前後とみられる上乗せ分の使い道として、政府は高等教育費の支援拡充、障害児や医療的ケア児への支援を拡充させる。
政府が素案で財源の内訳を示せない背景には、医療や介護の歳出抑制や新たな負担増を財源とすることに与党内で反発が強いためだ。時間をかけて議論する必要があると判断した。