次に投機筋が狙うのがユーロ安。
ECBが利上げしても、負の影響に反応し下落する。
何が起きるか分からないから、相場は怖い。
ユーロが急落、対ドルで20年ぶり安値
外国為替市場で欧州単一通貨のユーロが急落している。
5日の海外市場でドルに対しおよそ20年ぶりの安値を付け、日本時間6日夕には1ユーロ=1.022ドル台に一段安となった。
ウクライナ情勢を巡る地政学リスクなど不透明感は濃く、欧州では景気後退(リセッション)懸念が強まっている。
ユーロを買いづらい状況が続いており、そこに目を付けた投機筋がユーロ売りに照準を合わせてきたとの指摘がある。
5日夕刻からいきなり急落
「何が起きたのか分からない」――。国内銀行のディーラーから困惑の声が相次いだのは日本時間5日の午後4時すぎだった。
それまで1ユーロ=1.04ドル台前半での値動きだったユーロがいきなり急落。
1時間ほどで足元の下値支持水準として意識されてきた今年の安値(1.0349ドル近辺)や2017年1月の安値(1.0340ドル近辺)を下回り、一気に20年ぶりの安値まで売り込まれた。
6日も欧州勢の取引が活発になる日本時間夕刻に下げが再開した。
背景にガス供給不安
ユーロ売りを促したのは天然ガス供給への不安だった。
ロシア国営のガスプロムは欧州へのパイプラインである「ノルドストリーム」経由の供給量を大幅に減らしている。
5日には米大手証券が「ガスプロムが今月の設備メンテナンス後に供給を再開しない可能性がある」と指摘したと伝わり、警戒感が高まった。
ガス供給が止まれば資源インフレが一段と加速し、景気の先行きに大きな影を落とす。
5日にはデギンドス欧州中央銀行(ECB)副総裁が「ロシアがガス供給を停止するならユーロ圏が景気後退に陥る恐れがある」と述べていた。
ECBは利上げ、南欧諸国は負の影響
ECBはインフレ抑制へ利上げに踏み切る見通しだ。
ある国内シンクタンクのエコノミストは「利上げによる負の影響は南欧諸国により強く出やすく、欧州の分断化が深刻になるとの警戒感も強い」と話す。
スペインやイタリアなどは資源高の消費者価格への転嫁が進み、実質購買力の低下に危機感が強い。
『円売り』から乗り換えか
もっとも「ロシアのガス供給にしても欧州景気の先行き不安にしても今に始まった話ではなく、ここまでのユーロ売りにつながる材料とも思えない」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミスト)との声もある。
ある邦銀のディーラーは「主要通貨に対する円売りに一服感があるなか、次に値幅が狙える対象とみた投機筋がユーロ売りに照準を合わせたのではないか」と話す。
米商品先物取引委員会(CFTC)の6月28日時点のデータでは、ヘッジファンドなど投機筋(非商業部門)はユーロを対ドルで1万枚超売り越していた。
6月前半までは買い越しだったが、半ば以降に売り越しに転じた。
投機筋主導で1ユーロ=1ドルが視野
通貨オプション市場でもユーロは主要通貨に対して大きく売りに傾く。
対ユーロでドルのプット(売る権利)の需要からコール(買う権利)の需要を差し引いた「リスクリバーサル」の1カ月物は、5日時点でマイナス2.0500%と4月28日以来およそ2カ月ぶりのマイナス幅となった。
この数字はマイナスが大きいほど、ドル買い・ユーロ売りに傾いているのを示す。
対ユーロの円でも3月11日以来およそ4カ月ぶりのマイナス幅に拡大し、円買い・ユーロ売りに傾いている。
地政学リスクが大きく、米国などに比べても景気の先行き懸念が強いユーロにとって、ECBの金融引き締めに前向きな「タカ派」姿勢は重荷となりかねない。
投機筋主導で1ユーロ=1ドルという「等価(パリティ)」が20年ぶりに視野に入ってきた。