「人口減少の唯一の解決法は、国家が家族を守ること、家族形成に対する障害を取り除くことだ」
中欧ハンガリーの首都ブダペストで昨年9月に開かれた「ブダペスト人口問題サミット」。周辺のチェコやセルビアなどから首脳が参加する中、ホスト国ハンガリーのオルバン首相は、力説した。
GDPの4.7%を投入、「本気」の少子化対策
オルバーン首相は、単に移民・難民に反対するだけでなく、その代わりに「ハンガリー人を増やす」ということにも、恐るべき執念を燃やしている。
ハンガリーが少子化対策に充てる年間予算は、GDPの4.7%。
OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国の平均は2.55%で、日本は約0.8%しかない。
つまり、比率は日本の約6倍。オルバーン政権が始動して10年あまり経ったいま、1981年以来、減少し続けてきた人口減に、歯止めがかかり始めた。
ハンガリーの主な少子化対策
4人目の子供を産むと、定年まで所得税ゼロ
オルバーン首相自身、5人の子持ちで、とにかく子沢山を奨励しようと、昨年1月から、世界のどこにもない「所得税ゼロ」を打ち出した。
つまり、4人の子供を産んだ女性は、「ご苦労様、あなたは国家に十分、貢献したのだから、今後は所得税は免除します」というもの。
ちなみに子供1人の場合、月額32ユーロ、2人の場合は月額60ユーロ、3人の場合は99ユーロが、それぞれ所得税から軽減される。所得税は15%だが、現在、計100万人以上の母親が、これらの恩恵を受けている。
3人以上の子供がいる家庭は、7人乗り以上の新車を購入すると、7500ユーロの補助金がもらえる。
3年間の有給育児休暇
日本は原則、子供が1歳になるまでが育児休暇の対象だが、ハンガリーは3歳になるまで認める。子供が生まれる前に親が社会保障に加入していた場合、乳児ケア手当(CSED)が168日間提供される。額は、子供が生まれる前に稼いだ給与総額の7割。
その後、子供が2歳に達するまで、保育料(GYED)が提供される。額は、同じく7割。2018年には、計10万2512人が受け取った。さらにその後も、子供が2歳から3歳の間、親は85ユーロを受け取れる。
子供が生まれる前に親が社会保障に加入していなかった場合、子供が3歳に達するまで育児手当(GYES)が支給される。
3人以上の子供を持つ母親は、最年少の子供が8歳に達するまで、子育て支援手当(GYET)が支給される。
結婚奨励金
2015年から、新婚カップルに対する税額控除を導入した。この措置は若いカップルの結婚を奨励するためのもので、新婚カップルは、少なくともどちらか一方が初婚であることを条件に、結婚後2年間、毎月15ユーロの税額控除を受けられる。
2018年には、約8万3000人が、この制度を受けている。さらに妻が妊娠すると、妊娠91日目から給付金が出る。
無利子ローン
2018年7月からは、無利子ローン制度を始めた。
妻が18歳から40歳までの夫婦は、3万ユーロの無利子ローンを受けられる。このローンの月々の分割返済額は150ユーロ以下で、20年以内に返済。
ただし、最初の5年間に少なくとも1人の子供が生まれた場合、無利子のままで返済が3年間猶予される。
2人目の子供が生まれると、さらに3年間返済が猶予され、かつ元本の3割が帳消しにされる。
そして3人目の子供が誕生すると、残りの借金は全額返済不要となる。
マイホーム補助金
2016年1月から始めた制度(CSOK)で、3人以上の子供がいる家庭が新築の不動産を購入する場合、3万ユーロを現金支給する。
さらに4万5000ユーロ分の住宅ローンの金利を補助する。2020年7月までで、14万8105世帯が受けている。
また、中古物件を買う場合は、子供4人以上なら7500ユーロ、3人なら6000ユーロ、2人なら4000ユーロ、1人なら1600ユーロを、最大で補助する。
住宅ローン減額
2018年からは、住宅ローンの減額制度も始めた。3人以上の子供を持つ家庭は、子供1人あたり3000ユーロの住宅ローン減額。
2019年7月からは、2人以上の子供を持つ家庭にも同額の制度が拡大され、3人以上は計1万2000ユーロの減額となった。
学生ローン返済減免
大卒以上の高学歴女性の出産を促す政策。
2018年1月から、大学の学費にあてる学生ローンを借りていた女性が第一子を妊娠した場合、妊娠3カ月目から3年間、返済を停止できる。
第二子を妊娠した場合も同様。第二子を出産後は、学生ローン残額の5割が免除される。さらに、第三子出産後は残額全額が免除される。2020年7月までに、4810人が減免措置を受けている。
2018年1月からは、大卒以上の女性が出産した場合、2年間の保育料を給付している。2019年だけで、10万7580人がこの制度を受けた。
体外受精無料化
2017年から、第一子に対して5回まで、第二子以降は4回までの体外受精費用を、全額補助している。
2020年2月からは、体外受精にかかる医薬品の100%保険適用を始めた。これによって、体外受精は無制限に健康保険が適用されるようになった。
また、国営の不妊治療専門機関を、全国に12カ所(首都ブタペスト5カ所、その他7カ所)設置した。
移民に頼らずとも人口増加は可能
他にも、きめ細かい制度があり、とにかく子供を産めば産むほど、その家庭の生活が楽になるという社会を目指している。
パラノビッチ・ノルベルト駐日ハンガリー大使が、世界一進んだ少子化政策の成果について語る。
「こうした制度のおかげで、子供を望むハンガリー人は、過去10年で2割増加しています。結婚数は43年ぶりの高水準で、離婚数も60年前の水準まで下がっています。妊娠中絶数も36%減りました。2020年は3万4337組が結婚し、前年比6.7%増です。
女性の就業者数も、20年ぶりに上昇に転じました。20歳から64歳までの女性の就業率は75.3%まで上昇しています。3歳未満の子供がいる25歳から49歳までの女性の就業率も、2019年に17.9%まで上がりました。
何より、こうした制度がなければ、2011年以降、10万4000人もの子供が生まれなかったという統計が、制度の正しさを証明していると言えます。少子化対策というのは、最低でも10年はかかる国家の大計ですが、移民に頼らなくても人口を増やすことは、十分可能なのです」
世界銀行の統計によると、11年に1・23だった合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は18年に1・55まで上昇した。
所見
移民に頼らずに人口減少問題を解決したい。このことは日本も同様のはず。
ハンガリーの政策を参考にして、
岸田政権も、老人に社会保障費を垂れ流すのではなく、新しく日本を作る世代へ投資していただけないか。