アメリカ景気の減速が少しでもデータに表れると、日米金利差が縮小し一気に円高になる。
数ヶ月で20円以上の円安に動いたのは、マネーゲームの背景もある。巻き込まれないように分散投資が必要。
ドル円、132円台に急上昇
円相場が急上昇している。29日には一時1ドル=132円台を付け、21日に付けた138円88銭の安値からわずか1週間で6円超の円高が進んだ。
日米金利差の拡大を手がかりに円売り・ドル買いを膨らませてきた投機筋が巻き戻しの動きを強めている。
夏季休暇前後で市場取引が薄く、円相場の動きが荒い。
29日の外国為替市場で円相場は一時1ドル=132円台半ばと6月17日以来の円高・ドル安水準を付けた。
3月半ばの115円前後から139円台まで進んだ円安が急ピッチで円高方向に逆戻りしている。
「円売り・ドル買いで利益が出ていたポジションを解消する動きが出た」とある邦銀の為替ディーラーは話す。
「ドルの買い持ち高はかなりたまっていた。輸出企業の円買いが相場を押し上げたところで、ドル買い持ち高を解消する動きが円高を加速させた」(別の邦銀ディーラー)
アメリカ景気懸念
持ち高解消の背景にあるのは米景気懸念だ。
28日発表の4~6月期米実質経済成長率は2四半期連続のマイナスとなり、景気懸念が強まった。
27日の記者会見で米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は今後の利上げはデータ次第との姿勢を示しており、
想定していたほど日米金利差が拡大しないとみた投機筋などが円売り・ドル買いの持ち高を解消しつつある。
海外勢が夏季休暇に入る前に持ち高を落とす動きが出た面もある。
世界的な景気懸念で日本国債利回りも低下(債券価格は上昇)している。
日銀の政策修正を見込んで債券売り・円売りでしかけていた投機筋が金利低下で損失を抱え、両方の持ち高を解消する動きが日本の金利低下と円高の同時進行につながったとの見方もある。
先行きの見方は割れる
先行きについては見方は割れている。
シティグループ証券の高島修チーフFXストラテジストは「世界の注目点がインフレから景気後退に移ったことで、昨年来の円安・ドル高トレンドが終わった可能性がある」と指摘する。
商品価格も上昇が一服しており、貿易赤字の拡大に伴う円売りが一段と膨らむ状況ではないことも一因だ。
一方で三菱UFJ銀行の井野鉄兵チーフアナリストは「さらに円高が進むとは考えづらい。
FRBの利上げ路線が終わったわけではなく、米長期金利の低下余地は限られている」と指摘する。
長期金利の指標となる米10年債利回りは2.6%台と短期金利である政策金利の2.25~2.50%に迫る。日銀が大規模な金融緩和を続けている以上、円安・ドル高の基調は続くとの見立てだ。
一時は1ドル=140円の心理的節目に迫った円相場が急激に上昇しているのは事実。
一時的な調整にとどまるのか、それとも円安局面の終わりを示唆しているのか。
見方が定まらないだけに、取引が減る休暇シーズンの8月の急激な値動きに警戒感が増しつつある。