短期間で2割以上のドルベースで円安になった。
海外勢は2割も安く日本の不動産が買える。
日本の不動産価格は海外勢が買い支えて、さらに上昇する可能性がある。
香港系は2年で最大5000億円強投資へ
外資企業が割安感の強まった日本の不動産買いに動いている。
円安の進展で商業用不動産のドル建て価格指数は異例の水準に低下し、香港系ファンドのガウ・キャピタル・パートナーズは今後2年で過去2年間の6倍超の最大5000億円強を投じる方針だ。
低金利を背景に、投資利回りをはかる「イールドスプレッド」も安定し、海外勢の投資は続く見通し。円建て価格に上昇圧力がかかる可能性もある。
国土交通省がまとめた商業用不動産の価格指数(2010年平均=100)を基に、モルガン・スタンレーMUFG証券が算出したドル建て不動産価格指数は22年3月末時点で104.4。
リーマン・ショック後の低い水準に並ぶ。6月末時点の試算値は約93で、同社の調査で最低だった14年に迫る水準だ。
米国などの金融引き締めで世界の不動産投資信託(REIT)の合計時価総額は6月末で2.1兆ドル(約290兆円)と21年12月末から19%減。
配当収入などインカムゲイン狙いのマネーは市場から流出気味だが、日本の不動産には足元の円安も手伝って将来のキャピタルゲイン(売却益)も視野にマネーが向かう。
香港ファンドのガウ・キャピタルは22年春、東京や大阪などで賃貸マンションを32物件取得した。
マネージング・ディレクターのイザベラ・ロー氏は「円安進行は追い風。
安定して収益を得られる魅力的な市場」と話す。
オフィスビルやデータセンターなどに関心があり、今後2年で日本で4700億~5000億円強を投資する方針だ。
シンガポール政府系投資ファンドのGICは23年3月にかけ西武ホールディングスから「ザ・プリンスパークタワー東京」や「苗場プリンスホテル」など31施設を1471億円で取得する。
入札当初から海外勢の争いとなっていた。
高齢者向け住宅にも資金が向かう。米TIAA(全米教職員年金保険組合)の資産運用部門であるヌビーンは老人ホームなどに130億円強を投資する方針を決めた。
高齢化を背景に入居者の需要増が期待されるなか、物件の新規供給が少ない点などを考慮した。
足元で大型案件は少ないものの、海外勢の旺盛な投資意欲は続きそうだ。
欧州系不動産投資会社パトリツィアの日本法人の中元克美社長は「低金利が続き、購入時の借り入れコストは低い。相対的に高い投資リターンが見込める」と話す。
国内不動産大手ヒューリックの西浦三郎会長は「最近の入札案件で札を入れるのは9割は海外勢だ」と話す。
東京の利回り差は安定して高い
不動産サービス大手CBREによると、東京都心5区の大型オフィスビルの期待利回りと長期金利との差(イールドスプレッド)は10年以降、2~3%台を維持。
米ニューヨークのマンハッタンや英ロンドンなどに比べて安定収益を見込め、低金利で借り入れコストも低く、海外勢には魅力的な市場になっている。
海外勢の関心の高まりは市場の流動性を高め、市況に追い風だ。
もっとも急激な売買の加速は負の側面ももたらす。
ヒューリックの西浦氏は「都心のオフィスビル賃料は下落基調だが、海外勢の強気な入札もあって不動産の売買価格は下がっていない。円安が支えとはいえ、ややバブルの印象を持つ」と実需と離れた価格上昇を警戒する。
当面続く、日銀金融緩和
米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げを急ぐ一方で、日銀の金融緩和は当面続く見通しだ。
三菱UFJ信託銀行の竹本遼太上級調査役は「(外資勢の)投資姿勢が一気に冷え込むことはない」と予想している。
三菱地所が1989年、米ニューヨークで70階建ての超高層ビルを持つロックフェラーグループの買収を発表するなど、「ジャパンマネー」が世界を席巻した時期もあった。
2013年の日銀の異次元緩和以降、足元のさらなる円安の進展もあって海外の投資マネーが国内市場に活発に流れ込んでいる。
海外勢が今後、日本の優良な不動産買いの姿勢を続ければ、国内で警戒を呼ぶ可能性もある。