(写真)日銀副総裁の雨宮正佳氏(左)と大和総研理事長の中曽宏氏
後任が雨宮氏なら、金融緩和と円安は継続、中曽氏なら出口戦略で金利上昇、円高もありえる。
急激な変化を好まない現政府なら雨宮氏を選ぶ気がする。
黒田総裁の後任は、雨宮氏・中曽氏か
日銀の黒田東彦総裁の任期満了まで半年、岸田文雄政権は後任人事の検討に入る。
有力候補として日銀の雨宮正佳副総裁、中曽宏前副総裁(現大和総研理事長)の名前が挙がる。
10年目の異次元緩和は円安や財政規律の緩みなどのゆがみが目立つ。
金利のない状態になれきった日本経済を波乱なく正常化できるのか。
次期総裁には政府と渡り合い、揺れる市場とも向き合う胆力が求められる。
政府・日銀「あうんの呼吸」
「当面、金利を引き上げるようなことはない」。
日銀の黒田総裁は22日の記者会見で言い切った。
その直後に円安が勢いづくと、政府はすかさず24年ぶりの円買い介入を実施。
首相周辺は「いまは金利が上がる方が、円安進行よりも経済に打撃を与える」と黒田氏を擁護した。
浮かび上がるのは、超低金利の維持を大前提に、不測の事態には為替介入で対応するという政府・日銀の「あうんの呼吸」。
黒田氏が2013年3月に総裁に就任してから10年目、凶弾に倒れた安倍晋三元首相らの下で異次元緩和を進めてきた日銀と政府の足並みは乱れていない。
緩和修正のタイミングが難しい
黒田氏の任期は23年4月8日まで。77歳と高齢なため「3期目は難しい」(日銀関係者)との声が多い。
岸田政権は遅くとも来年3月までに次期総裁人事を固める。
異次元緩和には「デフレ脱却に一定の成果があった」(政府関係者)との評価がある。
政府では中長期的に出口を考える必要性を認める一方、影響が大きい急激な政策変更は望まないとの意見が多い。
政府・日銀には動けぬ事情もある。
マイナス金利政策の下、政府債務は国内総生産(GDP)の2.5倍に拡大し、国債の半分を日銀が保有する異常事態になった。
さらに、金利という規律を失って新陳代謝が進まなくなった日本経済は成長力が低下。
潜在成長率は日銀推計で黒田氏就任時の0.8%から0.2%に落ち、利上げへの耐性も下がった。
物価上昇率は5カ月連続で目標の2%を上回り、岸田首相も緩和の副作用である円安に神経をとがらせている。
緩和修正のタイミングは近づいているが、手順をひとつ間違えれば、現在0.25%以下に抑えている長期金利が跳ね上がりかねない危うさがある。
いわば膨らみきった風船から少しずつ空気を抜いていくことが次期総裁の役割だ。
政府と協調し、市場をなだめ、金融政策と日本経済を徐々に正常化していくバランス感覚と忍耐力が必要条件。
ためらう政府を押し切る強引さが求められる局面もあり得る。
有力候補の雨宮氏、中曽氏
有力候補となるのが、日銀副総裁の雨宮氏とその前任の中曽氏だ。
雨宮氏は理事や副総裁として異次元緩和を主導してきた。
デフレ下の金融政策のほとんどを取り仕切ってきた日銀の「プリンス」だ。
中曽氏は金融市場や国際金融に精通し、危機対応の経験も豊富だ。
13年から5年間、黒田氏の下で副総裁を務めた。
国際決済銀行(BIS)市場委員会で議長を務め、海外での知名度も高い。
首相官邸が求めるのは、物価2%目標を柱とする政府・日銀のアコード(政策協定)を重視し、二人三脚で金融政策を進められる人物だ。
首相周辺からは「いま名前が取り沙汰されているような人なら問題ない」との声が上がる。
変化打ち出すなら「第3の候補」も
「この10年、日銀が何をしてきたか知っている人が望ましい」(財務省幹部)。
政策修正という難局を前に、黒田氏の出身母体の財務省でも、日銀出身者の総裁就任を容認する空気が強まっている。
財務省OBでは黒田氏と同じ元財務官でアジア開発銀行総裁の浅川雅嗣氏らが総裁候補だが、副総裁狙いが基本線との見方がある。
副総裁候補では元事務次官の岡本薫明氏らの名前が挙がる。
もっとも、黒田氏の下で副総裁を務めた雨宮氏と中曽氏では「サプライズ感」に欠けるとの声が政府内にある。
アベノミクス継承の印象が強まりすぎてしまう恐れもある。
円安や物価高で異次元緩和への風当たりが強まるなか、岸田政権が変化を打ち出すなら第3の候補もあり得る。
元日銀の翁百合日本総合研究所理事長を女性初の総裁に推す声がある。
政府高官は「様々な観点を考慮して岸田首相が最終判断する」と話す。