為替介入、アメリカに気を使いGDPの2%とすると残り8兆円、約3回分。
投機筋との戦いは案外、決着が早いかもしれない。
円買い為替介入より1週間が過ぎた
政府・日銀が9月22日、およそ四半世紀ぶりの円買い・ドル売り介入に単独で踏み切ってから1週間以上が過ぎた。
介入は1ドル=145円台後半で始まり、円はいったん140円台前半に上昇した。
米国も介入に「理解」を示した。
だが、その後、円は徐々に売り戻され、円安修正効果はかなり帳消しになってしまった。
そこで鈴木俊一財務相は「(今後も)必要があれば必要な措置をとる」と語る。
となると関心を集めるのは、米国の「理解」を得られる範囲で追加的に手掛けられる当面の円買いの余地はどのくらいあるのかだ。
9月の介入額、2.8兆円に
財務省の発表によると、9月の介入額(8月30日~9月28日に実施され2営業日後に決済)は2兆8382億円。
そのすべてが22日の分であるなら、円買い介入の1日の規模としては過去最大だ。
ただ、原資となる外貨準備は8月末に1.29兆ドル(185兆円程度)あったから、さらなる行動の余地はまだ大きいようにも見える(9月29~30日に事実を公表しない「覆面介入」を手掛けた可能性も完全に排除はできないが、以下それはなかったと仮定して議論を進める)。
しかし、外貨準備のすべてをすぐに使う行動は米国が容認しないと考えられることなどから、買える円は20兆円程度という見方が聞かれる。
つまり当面使用できる外貨準備は全体の約1割にとどまるわけだ。既に実施した介入の額を除くと残りは17兆円くらいになる。
この20兆円というのは、外貨準備のうち海外の中央銀行などに預けている分(外貨預金)で買える円の規模だ。
預金なら引き出しても市場が混乱しないので使いやすい。
残りの大半は外貨建て証券(大部分は米国債と見られる)で運用されており、それは使用しにくい。
「日本の米国債売却で金利に上げ圧力がかかれば、米当局との摩擦を引き起こす可能性が高い」(米金融情報コンサルタント会社、オブザーバトリーグループ)からだ。
今は米長期金利が乱高下する状況であり、世界の株価の不安定な動きの背景にもなっている。
そんなときに日本が突然巨額の米国債を売れば、日本の動きに「理解」を示している米国が態度を変える恐れがあるのだ。
むろん、日本が米国債などを全く売れないとは言い切れない。
ただ、市場の混乱や米国の反発を招かない範囲で使える外貨準備は、外貨預金で持っている部分の規模を大きく上回ることはなさそうだ。
インフレ防止の〝逆通貨戦争〟の様相
もっとも、米国が容認する上限はもっと低いとの見方もある。
根拠は、米国が他国を為替操作国と認定する際の基準。
3つある基準の1つが「継続的かつ一方的な為替介入の実施」とされており、具体的には一定期間に国内総生産(GDP)比2%以上となっている。
日本だと2%は11兆円程度に相当し、介入額の上限として意識されるというのがJPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏の見方。既に手掛けた円買いの額を引くと、だいたい8兆円になる。
厳密に言うと、この2%基準は外貨の純購入額が対象。
外貨を買うということは自国通貨の売りを意味する。
つまり本来は自国通貨の買いではなく、売りへのけん制を狙ったものと解釈できる。
ただし、今の世界は輸出促進のために自国通貨安を促す従来型の通貨戦争ではなく、インフレ防止に向け自国通貨高を競う「逆通貨戦争」(英紙フィナンシャル・タイムズ)の状態にある。
インフレ退治を政治課題として重視する米国も、物価に上げ圧力がかかるドル安を望んでいない。
円を買ってドルを売る日本の動きも、GDP2%以上に膨らむなら否定的に受け止めるかもしれない。
米は「極めて例外的状況」のみ介入容認
そもそも米政府は、為替介入が認められるのは「適切な事前協議を伴った極めて例外的な状況のみ」(米財務省為替報告書)とクギをさしてきた。
円買いも、繰り返し実施され一定の規模に膨らむなら「極めて例外的」と見なさなくなる可能性がある。
当面の追加的な介入の余地は17兆円程度なのか、それとも8兆円程度なのか、あるいは別の数字が正しいのか、現時点で明確なことはいえない。
だが、外貨準備は一見潤沢に見えるものの、その大半は円の買い支えにすぐに使えそうにないのは事実だろう。
もし今後の円買い介入も1日分が2兆8000億円程度になるなら、残った「枠」が17兆円だとあと6回程度、8兆円なら3回弱しかできない計算だ。
円売り圧力を生む米利上げが仮に来春までに終わるとしても、まだ最長で半年程度はある。
米国がドル高けん制に転じるような展開になれば話は別だが、円の下落を抑える日本の行動について「弾切れリスク」を軽視できないのは事実だ。