富豪の総金額ではアメリカ人の方が資産があるが、人数ではアジアがトップに。
次の時代を作るのは、北米ではなくアジアかもしれない。
アジア人初、世界2位の富豪となる
アジアの富豪が存在感を高めている。
資産10億ドル(約1400億円)以上の富豪「ビリオネア」の長者番付で、インドの企業経営者ゴータム・アダニ氏が9月、アジア人で初めて世界2位に上り詰めた。
トップ10の大半はいまも米国人ばかりだが、幾つかのデータを点検するとアジア勢の台頭も浮き彫りになる。
「アジア人初のトップ3」。
アダニ氏が米ブルームバーグ通信の長者番付で3位になった8月下旬、インドメディアは相次ぎこう報じた。
米誌フォーブスの長者番付でもその後3位に。
保有株の日々の価格変動を映す両番付で、港湾や炭鉱、資源貿易を営む印アダニ・グループの会長は足元で4位だが、9月に一時、米テスラ創業者のイーロン・マスク氏に次ぐ2位に入った。
ビリオネアの人数ではアジアが首位
富豪ランキングのトップ10は米企業の創業者らが並び、「富豪と言えばアメリカ人ばかり」との印象が強い。だが全体を見れば、実態は逆だ。
日本時間9月29日時点でフォーブスのリアルタイム長者番付に並ぶ2400人超のビリオネアを地域別に集計すると、合計資産は北米が4.7兆ドルでトップとなり、アジア(3.5兆ドル)、欧州(2.4兆ドル)と続く。
だが人数ではアジアが951人で首位。北米(777人)や欧州(536人)を上回る世界最大の富豪集積地になっている。
国別では中国が440人、インドが161人で、米国(719人)に次ぐ2位、3位の富豪輩出国だ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)も加盟国を合わせると114人となり、台湾(45人)、韓国(28人)、日本(27人)の合計を上回る。
日本人ではファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が42位に入る。
富裕層の中でも上位層は「プルトクラート」と呼ばれ、産業革命以降の欧州で増え始め、グローバル化と技術革新を糧に米国で増殖した。
新興国の富豪成長スピードは桁違い
情報化と国際化が進んだ現在の新興国には、19~20世紀の欧米より速いペースで富豪を生む土壌があるとも指摘される。
新興国の富豪の成長は確かにハイペースだ。
クレディ・スイスが9月に公表したグローバル・ウェルス・レポートの収録データを基に試算すると、トップ1%の富裕層の資産額は2000~21年に、日本で1.2倍に、米国で3.6倍に膨らんだ。
だがインドは11倍、中国は34倍。元の規模が小さかったとはいえ、伸びは桁違いだ。
ではアジアのビリオネアが近い将来、長者番付の上位を席巻する日は訪れるのか。
クレディ・スイス証券ウェルス・マネジメントの松本聡一郎・日本最高投資責任者は、アジア人の「ここ数年の富の蓄積は不動産価格の上昇が主因」と指摘する。
長者番付の上位は不動産でなく「世界的企業の株を多く持つ」オーナー経営者が中心で、アジア人が米国勢に「追いつくには時間がかかる」とみる。
逆風も吹く
富裕層たたきに動く国もある。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が昨年8月に格差是正のスローガンとして打ち出した「共同富裕」が好例だ。
アリババ集団創業者のジャック・マー(馬雲)氏らは自発的な寄付などを求められ、保有資産を減らす。
足元では各国の金融政策が引き締めに転じ、株安やドル高といった逆風が吹く。
フォーブスのリアルタイム長者番付に入るビリオネアは約半年で245人減ったが、半分の126人がアジア人で、北米(27人減)との差は大きい。
とはいえ新興国の富豪には内需増大やインフラ整備などの支えがある。
クレディ・スイスは資産額100万ドル以上の「ミリオネア」が26年までに、中印でそれぞれ21年の2倍前後に膨らむと予想する。
富豪リストの上位を塗り替える日は遠くとも、アジア人富豪の勢いは今後も続きそうだ。