スーパーコンピューターや人工知能(AI)などに使う次世代半導体を国内で量産する体制作りが動き出す。
トヨタ自動車やNTT、ソニーグループなど日本企業8社が新会社を設立し、2020年代後半に向けて製造技術の確立を目指す。
政府も補助金を通じて支援する。
世界で半導体の次世代技術を巡る競争が激しくなっており、米国企業や産官民との連携の受け皿となる環境を整える。
新会社にはほかにNECやソフトバンク、デンソー、キオクシアホールディングスが、それぞれ10億円程度を出資する。
三菱UFJ銀行も参加する。
ラテン語で「速い」を意味する「Rapidus(ラピダス)」という新会社を設立済みで、今後も企業の出資や協力を募る見通しだ。
東京エレクトロンの前社長、東哲郎氏らが設立を主導した。
「ビヨンド2ナノ」と呼ばれる次世代の演算用のロジック半導体の製造技術を確立し、2020年代後半に向けて製造ラインの構築を目指す。
30年ごろには半導体を設計、使用する企業から製造を受託する事業への参入を目指す。
次世代半導体を巡っては、地政学リスクの高まりから、台湾などに偏在する製造能力を自前で確保する必要性が高まっている。
次世代ロジックは素子の構造などを変える必要がある。
技術的な移行期にあたるため、先行企業から巻き返しを図る機会として、必要な量産技術を確保する。
日本と米国は次世代半導体分野の研究開発での協力で合意している。
2022年度の2次補正予算案では日米連携の研究拠点整備に約3500億円を計上した。
拠点は年内にも設置され、国内外の企業や研究機関とも連携する見通し。
萩生田光一前経済産業相が訪米し協力を確認した米IBMやベルギーの研究機関imecなどが候補にあがる。
新会社ラピダスは製造能力の確保を目的としており、研究機関の開発成果を取り入れながら、次世代品に必要となる量産技術の確立に取り組む。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募している先端半導体の製造委託事業として応募しており、700億円の支援が決まっている。
ロジック半導体はスマートフォンやデータセンターなどの処理性能を左右する。
高度な通信網や完全自動運転にとっても、高い演算性能を持つ半導体や関連技術が重要になる。
事業会社にとっては出資を通じ、先端分野の開発・製造技術に携わるのが将来の競争力にとっても有利に働くと判断したようだ。
ロジック半導体は回路幅が小さいほど性能が高く、先端品では数ナノ(ナノは10億分の1)メートル単位に微細化した。
台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子は3ナノ品の量産技術を確立し、2ナノ品も25年に量産する計画だ。
日本で稼働するロジック半導体の製造ラインは最新でも40ナノ品で、10年代の先端開発競争では海外勢の巨額投資を前に、追従できなかった。
熊本県に誘致し工場建設が続くTSMCの拠点では12~28ナノ品の製造を計画するなど、製造基盤の確保を急いできた経緯があった。
日本は研究や製造を巡る国際協調を進める一方、先端ロジックの開発や製造投資に主体的に携われる企業が不在だった。
長く東京エレクトロンのトップを務め、米装置企業との統合交渉にあたった東氏や、米ウエスタンデジタルの日本法人トップを務めた小池淳義氏など、国際色の強い経営経験者が中心となって、先端開発の中心となる体制を整える。
焦点となるのはエンジニアの確保だ。
先端技術や製造工程の経験を持つエンジニアが欠かせない。
半導体関連企業などの協力を得る必要があり、すでに複数の企業が人材協力などで打診を受けているもようだ。