アジア各国で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行を準備する動きが広がってきた。
ラオス中央銀行が6日、ブロックチェーン(分散型台帳)開発をてがけるソラミツ(東京・渋谷)とCBDC実証実験を始める契約に調印する。
すでにCBDCを発行済みのカンボジアと越境決済も検証する。
経済で密接につながる中国の通貨である人民元の存在感が増しており、通貨のデジタル化で自国通貨の利用価値を高める。
CBDCとは中央銀行が発行するデジタル通貨で、Central Bank Digital Currencyの頭文字をとって呼称される。
日銀は①現金ではなく電子情報(デジタル)で発行・決済される②法定通貨建て③中央銀行の債務である、の3点を満たすものをCBDCとしている。
ラオス中銀が6日午前、CBDC「デジタル・ラオ・キープ」の実証実験に関する調印式を開く。
ワッタナ・ダラロイ副総裁らが参加する見通し。
日本からはソラミツの宮沢和正社長のほか、ラオス中銀とCBDCの調査について覚書を結んで支援してきた国際協力機構(JICA)幹部などが参加する予定だ。
ソラミツはラオス隣国のカンボジアが2020年10月に発行したCBDCであるバコンの支援実績がある。
ラオス中銀のCBDCにはバコンを一部修正したシステムを採用する。
7日から始める実証実験ではまずラオス中銀がCBDCを発行し、商業銀行に送金する。その商業銀行が個人にCBDCを送金し、個人が店舗で支払いできるかどうかを検証する。
ラオスがCBDCを導入するのは銀行口座を持たない国民にデジタルを通じて金融サービスを提供する金融包摂の狙いがある。
ラオスの銀行口座保有率は約3割。CBDCなら銀行口座が無くても、スマートフォンのアプリを使ってQRコードで店舗への支払いや個人間・企業間の送金ができる。
出稼ぎ先からの送金コストを削減できる利点がある。
ラオスのCBDCの特徴のひとつが実験当初から越境決済に踏み込む点だ。
世界ではバコンやナイジェリアのeナイラなどのデジタル通貨が発行されているが、デジタル通貨同士での決済は普及していない。
ラオスとカンボジアは両国間の越境送金システムを共同開発することで、デジタル通貨の利用価値を高める。
両国には中国などに依存しないCBDCによる経済安全保障を確立したいとの思惑もある。
中国経済の規模が拡大するに伴って各国の対中貿易額は膨らみ、自国通貨の対人民元レートの安定は重要だ。
中国はデジタル人民元を試験発行済みで、いずれ越境決済網を広げてくるのは確実。
その前に自国通貨の使い勝手を高める狙いだ。
アジアではベトナムやフィリピンがCBDCに関する基礎調査を進めているほか、フィジーなど太平洋に浮かぶ島国もCBDCを活用した越境決済への関心を強めている。
ソラミツはこうした国々が発行するデジタル通貨を相互につなぎ、国際決済ネットワークをつくりたい考えだ。
2021年の国際決済銀行(BIS)のリポートによれば、各国がCBDCを検討する理由として強調したのが越境決済の効率化だ。
国際銀行間通信協会(SWIFT)も18の中銀・民間金融機関と異なるデジタル通貨同士を接続する実験に成功した。
決済サービスには利用者が多いほど価値が高まる「ネットワーク外部性」がある。
デジタル通貨はつながる先を目指して組む相手を選ぶ時代に入った。