生活必需品の値上がりにより、低所得者は教育費の削減などを余儀なくされている。
高所得者はコロナ前を上回り、消費ができている。
物価高対策が遅れると、教育などの重要な分野で低所得者と高所得者の差が広がり続ける。
インフレ耐久力の二極化
物価高の下で所得の多い世帯と少ない世帯で消費の回復に差が出ている。
食品など暮らしに欠かせない商品やサービスの値上がりが大きく、低所得層は節約志向を強める。
高所得の消費の強さは新型コロナウイルス禍前の水準を上回った。
インフレ耐久力の二極化は低所得層ほど苦境に陥る分断を意味する。
的を絞った物価高対策と、幅広く恩恵が及ぶ賃上げによる底支えがなければ、消費回復の勢いが鈍りかねない。
足元の消費は回復基調にある。
7日に総務省が発表した8月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は物価上昇の影響を除いた実質で前年同月に比べて5.1%増えた。
依然、コロナ前の2019年8月を5%下回っているが、3カ月連続で前年を上回った。
一方、物価高を踏まえると収入は目減りしている。
厚生労働省が7日発表した8月の毎月勤労統計調査では、1人あたりの賃金は実質で前年同月比1.7%減と5カ月連続で前年を下回った。
世界的な資源高や円安を受け、4月以降の消費者物価上昇率は前年同月比2%を超え8月は2.8%と消費増税の影響を除き30年ぶりの伸び率だった。
その影響は、所得が少ない世帯ほど強く出る。
家計調査では世帯主の定期収入を基に5グループに分け、消費の動きをまとめている。
4~8月の勤労世帯の名目ベースの平均値をコロナ前の19年4~8月と比べた。
最も所得が少ないグループ(22年同期は平均で月20.3万円以下)の消費支出は6.5%減った。
可処分所得は7.6%増えたが、消費にまわった比率を示す平均消費性向が22ポイント下がった。
所得が真ん中のグループ(同30.3万~39.5万円)も可処分所得は4.6%増えたのに消費支出は3.4%減った。
これに対し、最も高い世帯(同50.4万円以上)は可処分所得は4.9%増、消費支出は7.0%増と、支出の伸びが所得の伸びを上回る結果となり、平均消費性向は1ポイント上昇した。
コロナ禍で積み上がっていた過剰貯蓄の一部が消費に向かった可能性がある。
所得が少ない世帯は使えるお金は増えたのに消費はかなり減った。
必需品の値上がり、その他を節約
暮らしに欠かせない商品ほど値上がりが大きく、必需品以外に使うお金を節約しているためだ。
代表例が教育の支出だ。
所得の多いグループは21.7%増えたのに対し、少ない層では29.5%減った。
保育無償化の影響もあるが、内閣府は22年度の経済財政白書で、コロナ禍で相次いだ休校を受け「年収の高い世帯は休校の影響を塾などでカバーした可能性がある」と指摘している。
スポーツウエアやゲーム機など「教養娯楽用品」への支出は所得の多いグループは23.6%増えたが、中所得だと10.1%増、所得が少ないと3.0%減だった。
宿泊料も低所得が19.8%減と低迷し、高所得は17.6%増えた。
高所得も4月は19年同月を下回っていたが、行動制限のない夏季シーズンとなった8月は支出額が19年同月の2倍に膨らんだ。
家計の支出は電気代や食品といった「基礎的支出」と、娯楽などの「選択的支出」に分けられる。
21年の統計によると、基礎的支出は所得が最も少ないグループだと消費支出の61.8%を占め、最も多いグループは46.0%にとどまる。
8月の消費者物価は基礎的支出が前年比で4.8%上がり、選択的は1.5%の上昇だった。
所得の少ないグループほど物価高の影響が大きい。
物価高対策が急がれる
物価高を補う形で賃上げが広がらなければ、消費者は基礎的支出も節約せざるを得なくなる。
食事や衣服、冷暖房など身近なところで生活レベルの低下を感じる事態になりかねない。
7月の月例経済報告関係閣僚会議で山際大志郎経済財政・再生相が「低所得世帯を中心に節約志向の動きがみられる」と述べるなど、政府内でも問題意識が高まっている。
岸田文雄首相が策定を指示した総合経済対策では円安・物価高への対応が重点分野の一つとなる。
消費の下支えには、中小企業にも賃上げが及ぶ施策や、所得の少ない層をメリハリをもって支える施策の効果が高いといえそうだ。