鉄道に続き、バスもコロナ禍で大赤字が発表された。
公共交通機関は赤字でも維持し続けるのか。
もし、赤字路線が削減されるようになったら、そのエリアの不動産価格は大暴落する。
一層、都心に人が集まる構造になるのか。
全国路線バス、2年で赤字3,759億円
全国の路線バスの2020~21年度の営業収支は推定3759億円の赤字で、新型コロナウイルス感染拡大前の10年分の損失に相当することが分かった。
国土交通省の統計や日本バス協会の試算をもとにまとめた。
人口減にともない路線バスの収支は厳しく、新型コロナ下の行動制限が拍車をかけた。
JRなど鉄道各社は不採算の地方路線のバス転換を見据えるが、公共交通全体の厳しい経営環境が浮き彫りになった。
国交省が公表している全国の路線バスの収支は20年度が1992億円の赤字。
日本バス協会の試算によると、21年度は1767億円の赤字になる見通しだ。人口減による利用者の減少で路線バスの収支はかねて厳しく、19年度も562億円の赤字だった。
全国に緊急事態宣言が発令された20年4月以降、たび重なる行動制限にともなう移動自粛の広がりに燃料高が重なり赤字幅が拡大した。
20~21年度に計上した路線バスの赤字の合計はコロナ前10年分の損失額に相当する。
今後もコロナ前の水準には戻らない
関東バス(東京・中野)は9月30日付で資本金を3億7500万円から1億円に減らす予定だ。
テレワークやリモート授業の定着で足元の収入はコロナ前比で約2割減の水準が続く。「今後もコロナ前の水準には戻らない。減資によって税負担を少しでも軽くしたい」(同社)という。
全国の貸し切りバスも苦しい。19年度に25億円の黒字だったが、20年度は236億円の赤字に転落。
21年度も同程度の損失になったもようだ。東京商工リサーチによると、21年の貸し切りバス業の倒産(負債1000万円以上)は14件と20年比で27%増加。
1992年以降の30年間で最多の倒産件数だった。コロナ下で訪日客が減り、団体旅行需要が減ったことが大きい。
路線バスや貸し切りバス事業者など約2千社が加盟する日本バス協会の清水一郎会長(伊予鉄グループ社長)は日本経済新聞の取材で、コロナ下で採算が悪化したバス業界への補助金の拡充を政府に求める考えを示した。
清水会長は「コロナ下で飲食業には営業時間短縮にともなう協力金が配られたが、地域の公共インフラを担うバス業界には十分な支援がなかった」と述べ、実効性のある補助金の確保を求めた。
清水会長は「県境をまたぐ貸し切りバスは外出自粛による打撃が大きい」と説明する。
行動制限で観光客が減る中、高速バスを利用した貨客混載で収益源の多角化を図ったり、経費削減を進めたりしている一方、安全運行の維持や需要再開にはまとまった運転手の確保が必要だ。
清水会長は「安全運行のための投資は経営が厳しくても決して緩められない」と話した。
鉄道も厳しい
公共交通を取り巻く事業環境は鉄道も厳しい。
JR東日本は7月末、利用者が少ない地方35路線の19年度の営業赤字が693億円だったと発表した。
JR西日本や北海道、九州などでも赤字が目立つ中、鉄道より運営コストが低いとされる路線バスや、線路跡などに敷設した専用道をバスが走るBRT(バス高速輸送システム)への転換を視野に入れる。
地域の公共交通全体が厳しい事業環境にある中、「路線バスは公共交通の最終手段だ」(清水会長)。
そのうえで燃油費の削減に向け、ランニングコストを抑えられる電気自動車(EV)バスの普及を目指すが、車両の導入や充電インフラの整備が欠かせない。
清水会長はEVバス導入促進に向けた国による支援の必要性も改めて訴えた。