金融庁は地域銀行99行やグループの証券会社27社を対象に、仕組み債など金融商品の販売実態について一斉調査に乗り出した。経営陣が複雑で高リスクの仕組み債の問題を十分に検証せず、顧客に販売してきたことを問題視している。ほかの金融商品でも同様の問題がないかどうか調査し、地銀のコーポレートガバナンス(企業統治)の課題を総点検する。
仕組み債は国債より利回りが高く、株価や金利などを組み込んだ複雑なデリバティブ(金融派生商品)で、価格変動時に大きな損失が発生しやすい。もともとプロの機関投資家向けに開発され、高齢者など個人に販路を広げていた。全国地方銀行協会によると、2021年度に加盟62行のうち57行が総額約9500億円を販売した。
高齢者の退職金などを目当てに仕組み債を販売し、その後、損失が発生するケースがあった。顧客からは金融機関側が商品の仕組みを十分に説明していなかったなどの不満が出た。仕組み債を販売していた地銀57行のうち、27行で約110件の苦情があった。57行は販売体制を見直したが、地銀全体の直近の苦情件数は横ばいで推移している。
こうした状況を受け、金融庁は22年12月にすべての地銀とグループの証券会社を対象に調査に乗り出した。顧客の利益を軽視した金融商品の販売を経営陣が見逃していないかどうかなどを確認する。調査結果は地銀全体の動向として公表する。改善が必要と判断した地銀については、個別で立ち入り検査に入る可能性もある。
仕組み債などの高リスク商品を傘下の証券会社で販売し、グループの収益源としていた地銀は少なくない。仕組み債を含むトレーディング収益が営業収益全体の8~9割を占める地銀系証券会社もある。金融庁が調べた地銀の22年3月期の主な金融商品の販売構成をみると、グループに証券会社を持つ27の地銀では仕組み債の販売が全体の4分の1にあたる23%を占めた。
金融庁は22事務年度(22年7月~23年6月)の金融行政方針で仕組み債の販売状況を重点的に検証する方針を盛り込んだ。販売を継続する場合、その理由を聞き取ることにしており、複数の地銀の検証作業を始めていた。今回の一斉調査により地銀や傘下の証券会社は一段と仕組み債などを販売しにくくなる可能性があるが、消費者保護を優先する。
仕組み債にとどまらず、外貨建て一時払い保険など他の金融商品でも同様の問題があるとみている。一部の地銀は事業環境が厳しさを増し、販売手数料の高い商品の販売に頼らざるを得ないためだ。仕組み債を扱っていない地銀も含め全地銀に共通の調査を行い、商品全般の販売実態や銀証連携のあり方を広く確認する。