「自分の代で解決しないと、子どもや孫の大きな負担になりかねない」。
千葉県に住む男性会社員のAさん(59)は空き家になっている九州の実家について「相続土地国庫帰属制度」の利用を真剣に考えている。
相続した土地が不要な場合に国に引き取ってもらえる制度で、2023年4月27日から利用可能になる。
Aさんは20年3月に母が亡くなり、実家を弟とともに相続した。
実家は最寄り駅から徒歩で約1時間かかり、山林に囲まれている。
近くに店舗もないためAさんらは住むつもりがなく、買い手も見つからない。
空き家の維持・管理費は固定資産税や水道光熱代などで年間10万円ほど。
「このまま管理し続けるしかないのか」と半ば諦めていたAさんが最近知ったのが、相続土地国庫帰属制度だった。
国に土地を引き取ってもらう際は管理費相当額として一定の負担金を納める必要がある。
Aさんのケースでは建物の解体費とあわせて約200万円と、現在の維持・管理費の約20年分になる見通しだ。
ただ司法書士の船橋幹男氏は「賃貸も売却もできず、コストだけがかかる『負動産』を処分したいなら、国庫帰属制度は選択肢になり得る」と話す。
引き取りの条件多く
では制度を利用するにはどうすればいいだろうか。
国は引き取る土地について多くの条件を定めており、これらを満たす必要がある。
条件は利用申請時と法務局による審査時の2段階に分かれ、それぞれ5つある。
まず申請段階で建物があると申請自体を受け付けてもらえないため、自己負担で解体する必要がある。
借り入れに伴って金融機関の担保権などが設定されていたり、隣地との境界が不明確で争いがあったりしても却下される。
土壌汚染対策法上の有害物質に汚染されていたり、道路や水道用地、用水路などに使われていたりする場合も受け付けない。
審査段階では土地に庭木を含む樹木や石灯籠などの工作物があったり、除去が必要ながれきやコンクリート片が埋まっていたりすると引き取ってもらえない。
さらに22年9月末に決めた政令では「勾配30度以上で高さ5メートル以上の崖がある」「地割れ、陥没などがある」「鳥獣や病害虫がいて被害が生じている」といった場合も承認しないとしている。
申請・審査時の条件は複雑なため、土地の引き取りを望むなら政府が23年2月にも法務局で始める予定の事前相談を利用するといいだろう。
担当官にどんな条件を満たす必要があるか、希望する土地が条件に合うかどうかの大まかな見通しなどを尋ねることができる。
事前相談をしなくても4月の制度開始以降に申請できるが、条件をよく把握しておけば申請や審査が円滑に進む可能性がある。
事前相談は電話で予約してから出向く。
当日は土地の状況が分かる書類などを持参するといい。
例えば土地、建物の登記簿謄本が手元にあれば持っていきたい。
謄本を見れば担保権などの設定の有無がはっきり分かる。
謄本が手元になくても法務局に原本があるので、謄本を取得できるだろう。
「建物がない」ことが大前提なので、既に建物を解体・撤去していれば解体費の領収書や土地の写真を持参しよう。
事前相談の段階で建物の解体・撤去が済んでいなくても構わないが、申請までに解体・撤去する見通しがあるかどうかが重要になる。
近隣と土地の境界について確認を交わした書類があれば、境界が確定していて争いがないことが担当官に分かりやすくなる。
土地の売却などをする場合は境界線を明確に記載し、互いの署名・押印のある書類をつくるのが一般的。
境界には通常、コンクリートなどでできた境界標という目印があり、境界標の写真も添付する。同様の書類があるなら、事前相談の際に好都合だ。
負担金、土地の種類や面積で違い
9月末の政令では負担金の計算方法も具体的になった。
宅地、農地、森林といった土地の種類や面積ごとに計算式があり、例えば都市計画法の市街化区域にある宅地で面積が「100平方メートル超200平方メートル以下」なら「面積×2450円+30万3000円」で算出する。
市街化区域外にある宅地の負担金は原則として面積にかかわらず一律20万円となっている。
空き家の解体・土地の引き取りでは一時的に費用が発生するが、相続人の間で分担すれば1人当たりの負担は抑えられる。
「公平に分担し、それぞれが相続した財産から払うのが一案」(三河尻和夫司法書士)になりそうだ。