岸田文雄首相は23日、衆参両院の本会議で施政方針演説に臨んだ。
最重視する少子化対策を児童手当など経済支援の拡大、子育てサービスの充実、働き方改革の3本柱で進めると表明した。
財源の一部は社会保険料を想定する。
財政支出を中心とする対策には限界があり、経済成長による賃上げや制度改革、インフラ整備を含めた総合的な取り組みが必要となる。
1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は2021年に1.30と6年連続で低下した。
22年の出生数は統計開始後、初めて80万人を割り込む見通しだ。
今回の対策は児童手当や保育などのサービス拡充といった財政支出が前面に出ている。
給付やインフラ整備だけでなく、賃上げなどで若い世代が将来展望を持てるようにすることも欠かせない。
首相は効果が薄かった過去の対策を念頭に演説で「年齢・性別を問わず、皆が参加する従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と強調した。
働き方や暮らし方を含めた社会全体の意識改革をめざすという意味だ。
長時間労働を前提とした職場環境の改善や、夫婦で働きながら子育てしやすい制度づくりなどと組み合わせた複合的な取り組みが必要となる。
具体策は6月に決めるため演説では示さなかった。
少子化は人口減を加速させ、社会保障や労働、地域社会の担い手不足による国力低下をもたらす。
首相は「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」だと危機感を表した。
働き方改革を巡っては女性の正規雇用比率が20代後半に下がる「L字カーブ」の問題があると触れた。
出産後に非正規になる場合が多いと指摘し、この解消を訴えた。
出生率が持ち直しているスウェーデンは子どもが8歳まで両親で合わせて480日まで休暇を取得できる。
そのうち390日は所得の8割を保障する。こうした企業も巻き込む抜本的な改革をできるかが問われる。
首相は6月ごろの経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに「将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と打ち出した。
4月に発足するこども家庭庁の2023年度予算案は4.8兆円ほど。新たに数兆円が要る。
実現に向けて「各種社会保険との関係」などを工夫すると説明した。
政府内では年金や医療などの保険制度から少しずつ拠出して財源に充てる案はあるが、保険料引き上げのような負担増だけでまかなうのは限界がある。
高齢者に偏る社会保障制度の改革や効果の薄い補助金の見直しなどによる「賢い支出」に加え、デジタルや脱炭素といった成長戦略と一体の取り組みが不可欠となる。
首相は22年末に防衛力強化策と原子力発電所を活用するエネルギー政策をまとめた。
演説では防衛財源の確保を「先送りせず対応する」と強調し、原発の運転期間を延長する方針も示した。
これらの政策を巡る与野党の国会論戦は初めてとなる。
今回の少子化対策のように6月に具体化する政策を通常国会冒頭で強調するのは珍しい。