海外のファンドだけでなく、富裕層も日本の不動産購入に動いている。
日本の住宅用物件などを扱う仲介会社には台湾や香港、シンガポールなどアジアに住む個人からの問い合わせが急増。
海外通貨に比べて円の割安感が続いていることもあり、個人の資金が流れ込んでいる。
米不動産サービス大手ジョーンズラングラサール(JLL)によると、2022年4~9月の海外勢投資家による日本の不動産への投資額は5000億円強と前年同期比8割増加した。
日本への不動産投資全体に占める海外勢の比率は7~9月に49%とほぼ半分にのぼる。
これまでファンドなどによる日本の不動産の購入が目立っていたが、円安を受けて個人の存在感も増してきている。
「六本木あたりに物件ありませんか?」。
不動産仲介「INVASE」を運営するMFS(東京・千代田)には今春以降、海外個人客からの問い合わせが増えている。
担当者は「ローンを組まずに現金ですぐに買いたいというアジアの客からの問い合わせが多い」と話す。
台湾不動産仲介大手の日本法人、信義房屋不動産(東京・渋谷)では台湾や香港、シンガポールなどの個人からの日本の物件の照会が急増。
1~9月の成約件数は前年比56%増加した。
7~9月だけでみると9割増で、足元でも引き合いが強い。
金額ベースでは22年前半に200億円を超え、過去最高になったという。
何偉宏社長は「円安が一番大きな要因だ。投資用やセカンドハウスなどに加え、台湾と中国との緊張が強まったことで資産を逃がすための需要も増えた」と話す。
中華圏などの個人向けに日本の物件を紹介するボーンマーク(東京・中央)の桂小川社長も「円安がほぼ唯一の増加要因だ」と語る。
同社では円相場の急落が始まった3月以降、中国などからの物件の問い合わせが急増。
海外勢への案内件数は過去最高水準だという。
同社が扱う物件で中国人から人気があるのは港区など一等地のタワーマンションの一室だ。
不動産仲介会社によれば、中国人は日本でローンを組む手段が限られることもあり、十数億円の物件の現金一括払いも珍しくないという。
ある国内銀行は「投資用不動産向けの融資ニーズはアジアなどの外国人から強い。ただ中国人は、中国本土の法制度の問題から返済が滞ったときに強制執行できるか不透明で、実際に融資するのは難しいのではないか」と明かす。
円安だけでなく、取引のしやすさも魅力という。
「日本は取引の透明性と安全性が高い」(信義房屋不動産)ほか、「流動性が高く、売りたい時に売りやすい」(ボーンマーク)のも投資が増えている理由のようだ。
国土交通省が公表する全国のマンション価格の指数は22年7月に前年同月比1割伸びた。
一方、円相場は同期間に2割近く下落している。
海外機関投資家の関心も高い。
JLLの内藤康二リサーチディレクターは「海外で利上げが進む中、日本は金利が据え置かれているため、借り入れコストが低い」と話す。
利上げが続く韓国など「これまで対日投資をしてこなかった国の投資家も日本に関心を持ち始めている」という。
もっとも、海外の金利低下などで急激に円高に振れた場合、海外個人による日本の不動産買いは鈍る可能性がある。
ボーンマークの桂社長は「日本の不動産そのものは安くなく、安いのは円だけ。円高になればブームが去るのは早いだろう」と話している。