次期日銀総裁の候補で経済学者の植田和男氏への所信聴取が27日、参院で開かれた。
植田氏は故安倍晋三元首相が進めた経済政策「アベノミクス」について「着実な成果が上がっている」とし、自民党最大派閥の安倍派やリフレ派に一定の配慮を示した。
大規模な金融緩和政策は「メリットが副作用を上回っている」として継続が必要との考えを改めて強調した。
「アベノミクスをどう評価しているか」「継承するのか。(日銀として)その一端を引き続き担う決意があるのか」
自民党は27日の参院議院運営委員会で参院安倍派を率いる世耕弘成参院幹事長を質問者にたてた。
「官房副長官、経済産業相としてアベノミクスの一端に関わってきた者として確認しておきたいことがあった」と切り出し、植田氏に質問を矢継ぎ早に浴びせた。
植田氏は「(政府と日銀が)必要な施策を実行し、デフレでない状況を作り出した。企業収益の拡大、人口が減少する中でも女性、高齢者を中心に雇用の拡大がみられた。着実な成果が上がっている」とアベノミクスを評価する考えを示した。
継承するかは「(物価2%目標の達成を目指すことを)続けるという意味で踏襲するということ」とし、現行路線を継続する姿勢を示した。
政府と日銀が2013年に結んだ物価2%目標を柱とする共同声明の見直しについても「私個人としてそういうことは考えていない」と改めて明言した。
現在は「できるだけ早期に」となっている物価目標の達成時期も踏襲する意向を示した。
ただ、大規模緩和の副作用について「市場機能に影響があるかもしれない」と言及した。
日銀が2022年12月に実施した長期金利の許容変動幅の拡大といった政策修正の効果を注視しているという。
出口戦略は「(物価2%目標が)達成できる見込みが得られるようになったときに開始することになる」とし、具体的な方策は「考えていないわけではないが、コメントは差し控えたい」とした。
政府がまとめた人事案では、日銀の正副総裁から積極的な金融緩和や財政出動を求めるリフレ派が姿を消す見通しだ。
市場では日銀の新体制がどこかで政策修正に乗り出すとの観測が強まっていた。
自民党内にもアベノミクスも修正されるのではないか、との疑念がくすぶっていた。
特に警戒していたのが安倍氏が率いた安倍派の議員だった。
政府が人事案を固める前にも「アベノミクスを修正するなら人事案は認められない」と政府の動きをけん制する議員もいた。
アベノミクスの継続の有無は安倍派そのものの求心力にも影響がある。27日に世耕氏が質問にたったのはそうした事情がある。
世耕氏は質疑後、記者団に「(アベノミクス継続への懸念は)ある程度払拭されたと思う」との見方を示した。
東短リサーチの加藤出氏は「安全運転だった。あまり出口について正面から言うと反対が出やすくなる上、マーケットが大きく動いてしまうので発言をとどめたのでは」との見方を示した。
28日には副総裁候補の内田真一日銀理事、氷見野良三前金融庁長官の参院での所信聴取がある。
衆参両院で正副総裁人事への同意が得られれば、植田氏は4月9日、内田氏、氷見野氏は3月20日に就任する予定だ。