金融機関で退職者とのつながりを重視する動きが広がっている。
三菱UFJ銀行は10日、「アルムナイ(卒業生)」ネットワークと呼ぶ退職者の交流サイトを開設する。
退職者を再び採用するカムバック人材の活用も進む。
業種を超えて優秀な人材の獲得競争が激しくなるなか、「裏切り者」というかつての意識は変わりつつある。
三菱UFJ銀行が立ち上げるのは、いちど同行を退職した人とのつながりを保つための交流サイトだ。
退職者なら関連会社への出向者らを除いて参加でき、定期的な交流会の開催などを予定する。
アルムナイ向けに採用情報を発信するほか、現役行員との協業や関係構築といった効果を期待する。
2016年から現役行員と退職者が交流する非公式の団体「SMBCベンチャー会」があった三井住友銀行も今年4月、会社公式のアルムナイ交流サイトをつくった。
参加者が自身の経歴などを掲載し、現役行員との交流イベントや中途採用の情報を発信する。
みずほFGは20年に大手銀として初めて導入し、現在は約800人が登録している。
サイトを通じた交流のほか、リアルのイベントも開く。カムバック採用の候補者としてだけでなく、ビジネスマッチングにもつながると期待する。
アルムナイ制度はSBI新生銀行なども導入している。
3メガバンクの採用数に占める中途の割合は19年度の採用活動(新卒は20年入行)時にはわずか7%だったが、23年度は4割に迫る。
背景にはデジタル分野などで即戦力となる人材の必要性が増していることがある。
3メガバンクは23年度に少なくとも計770人の中途採用を計画している。
21年度の実績に比べ4.5倍の規模で、三菱UFJ銀行は24年度にも新卒と中途の採用数をほぼ同じにする。
アルムナイやカムバック採用は、人材受け入れの間口を広げることが競争力向上につながるとの考えがある。
中途採用では企業文化になじめずに転職を繰り返すこともあるが、カムバック人材にはこうした不安は少ない。
いちど外の世界をみたうえで戻ってくるため「むしろロイヤルティーが高い」(メガバンクの人事部経験者)という。
カムバック採用について大手銀の中堅行員は「銀行は辞めた人には冷たく、数年前までは考えられなかった」と話す。
ただメガバンクの首脳は「銀行の外で経験を積んで戻ってきてくれるならむしろ歓迎したい」と語る。
みずほFGと傘下の銀行・信託は22年度に計10人をカムバック採用しており、他行も力を入れる。
三井住友海上火災保険はアルムナイにとどまらず、入社に至らなかった人材ともつながりを保とうとしている。
新卒採用で最終面接を通過したものの、内定の受諾を辞退して他社に就職した人材を対象に中途採用試験での優遇枠を設けている。
将来の受け入れをにらみ、転職先として同社を意識してもらおうと発想を転換した。
カムバック採用だけでなく、従業員が知人を紹介するリファラル採用にも力を入れている。
専門領域を担当する人材同士の会社を超えた横のつながりを生かし、優秀な人材を引き抜く考えだ。
これまで金融機関は新卒で大量に採用し、様々な部署を経験させながら人材を育てるのが主流だった。
入社年次も背番号のように重要視されてきたが、雇用の流動化で中途採用が増えるなか、そうした意識は一段と薄れている。