急激な人口減により各業種、人手が足りない。
本気で子供を増やす努力をしなければ、いずれ日本は消滅する。
少子化対策『ゆでガエル』状態
日本は人口減少によって国家が縮んでいく現実にどこまで真剣に向き合っているだろうか。
継続的な人口減少局面に入ってからすでに14年たったのに、労働力不足を克服し、年金、医療、介護の機能不全を防ぐ道筋は見えない。
少子化対策も踏み込みが甘く、このままでは「ゆでガエル」になりかねない。
現場の頑張りでは持ちこたえられず
製造業は38万人、医療・福祉は187万人、サービス業は400万人……。
パーソル総合研究所と中央大学がまとめた「労働市場の未来推計」によると、日本全体の人手不足は2030年に644万人に上る見通しだ。
新型コロナウイルス禍以前の19年上半期の人手不足が約138万人だったので、わずか10年余りで4.6倍になることになる。
今までは一人ひとりの仕事を増やしたり、業務を効率化したりすることでしのいできた現場が多いだろう。
欠員率は3%未満だったのでそれもある程度は可能だった。
だがパーソルの推計を基にはじくと30年の欠員率は10%を超える計算になる。
サービス業はなんと20%を超す。もはや「現場の頑張り」では到底持ちこたえられない。
生産や物流は滞り、小売店では商品が欠品しがちになる。
病院の待ち時間はどんどん長くなり、親が介護サービスを受けられずに離職する人が続出する。
道路や橋は通行止めが増えていく。
こんな事態がありうる。日本全体を見渡した根本的な対策が急務だ。
少子高齢化の対策、踏み込み甘く
人手不足の解決策は4つしかない。
働く女性を増やす、働く高齢者を増やす、日本で働く外国人を増やす、生産性を上げる。
いまの日本は総じて踏み込みが甘い。
保育の受け皿は増えてはいるものの、まだ十分とは言えない。
高齢者雇用は年齢を理由に差別されない労働市場づくりが課題。
外国人労働者は日本人との処遇に格差があるなど「外国人に選んでもらえる国」にする取り組みが不十分だ。
人手不足で最も重要なのが生産性向上だが、これを後押しするための労働市場の改革はほとんど手つかずだ。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、金融など日本で自動化される可能性が高い仕事に就く労働者の割合は7%。
パーソルは自動化が進めば30年までに298万人分の人材を捻出しうると分析している。
だが労働市場の流動性が乏しいため、今のままではこうした人材が自動化困難な介護などの仕事にシフトする労働移動はなかなか進まないだろう。
企業が事業を再構築する際に従業員を整理解雇しやすいジョブ型雇用への移行と、職業訓練を経由して労働者を成長業種に移していく北欧型の積極的労働政策の採用が必要なはずだが、改革の推進力は弱々しい。
社会保障制度の改革もさながら牛の歩みだ。
負担と給付の世代間格差を急いで是正しないと、現役世代は高齢者の医療・介護を支える負担がどんどん重くなっていく。
一定以上の資産がある高齢者の自己負担を引き上げると同時に、デジタル技術を活用して重複診療・検査を防ぐなど、医療費を抑制する改革を急ぐべきだ。
年金制度も欠陥を抱えたままだ。「100年安心プラン」と銘打った04年改革で盛り込んだ年金減額が進まず、このままだと将来世代の基礎年金が大きく目減りしてしまう。
こうした課題が明らかになっているのに政府・与党は年金制度の改革になかなか着手しない。
目先の選挙を意識して改革の議論すらやめてしまう思考停止の期間が長すぎる。
少子高齢化を克服する改革は時間との闘いだという認識をもっと強めなければならない。
「人口減前提の社会」持つ覚悟を
日本は人口動態に関する2つの現実に正面から向き合う必要がある。
1つは少なくとも向こう数十年間の人口減少が確定的だということだ。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、子供を多く産んでいる25~39歳の女性の数は今後の四半世紀に減り続け、45年には771万人と20年比で23%減まで落ち込む。
これはこれまでの少子化によって確定した未来といっていい。
母親となる女性が減るので、女性1人が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が足元の1.34から1.44に上がるとしても、出生数は20年の84万人が45年には70万人まで減る。
一方、死亡者は141万人から165万人に増える。
つまり人口を反転増加させるには夫婦やカップルが今の2.4倍の子供を持つ社会にならなければならない。
出生率にすると3を超える世界だろう。25年という期間で日本人の家族観がそこまで変わるとは想定しにくい。
もう一つは出生率が人口置換水準である2.07を超えなければ、いつまでたっても人口減少は止まらないということだ。
人口問題研の長期推計では53年には1億人を割り込み、2100年には6118万人と今と比べてほぼ半減する。
政府は子供を持ちたい人の希望がすべてかなった場合の出生率1.8(希望出生率)を少子化対策の目標にしている。
個人が幸せな人生をおくれるようにするため、あるいは人口減少の速度を遅くするために重要な目標だが、仮に1.8を実現しても人口減が続くことに変わりはない。
日本は人口がいつか再び増えるという安易な期待を抱かず、人口減を前提とした社会を覚悟を持ってつくっていかなければならない。
同時にいずれ人口を反転増加させたいなら、希望出生率そのものの引き上げを目指さなければならない。
個人の選択を尊重するという大前提を崩さずに、どんな環境が整えば日本人が2人以上の子供を持ちたいと思うようになるのか。
海外の事例も参考に研究を急いだ方がよいのではないか。