2024年春に卒業する予定の大学生・大学院生を対象とした就職活動が本格化しています。
そのなかで目立つのが金融機関による処遇の改善で、大手銀行では20万円程度だった初任給が25万円を超える水準になりそうです。
初任給を引き上げる背景には何があるのでしょうか。
大手金融機関の初任給は?
大手行が相次いで初任給を引き上げます。みずほフィナンシャルグループ(FG)は1日、24年に入社する大卒の初任給を5万5000円多い26万円にすると発表しました。
りそな銀行と埼玉りそな銀行も24年度から25万5000円にすると明らかにし、三菱UFJ銀行も同時期の引き上げを検討しています。
こうした動きに先行する三井住友銀行は、23年春に入る新卒から初任給を前年より5万円高い25万5000円にします。
大和証券グループ本社も1日、6月から新卒の初任給を上げると発表しました。
2年連続の引き上げで、総合職は1万5000円増の28万円、コールセンターなどに勤務するカスタマーサービス職は1万円増の23万5000円になります。
保険会社では住友生命保険が24年4月に入社する内勤職の初任給を最大11.9%上げることを決めています。
たとえば勤務地の固定がない採用コースではこれまでの21万円から23万5000円となります。

なぜ、大幅アップ?
大手行の初任給は10年以上にわたり、20万5000円で横並びが続いていました。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(21年)によると、大学を卒業した1年目の平均賃金は22万5400円。
給与の受取額は評価や成果に応じて変わりますが、おおむね新卒から30歳代半ばまでは銀行と採用時に競合することの多い商社や損害保険と比べて見劣りすることが多くなっています。
終身雇用が前提だった時代には、初任給の水準で劣っていても優秀な人材を採用できていたかもしれませんが、いまや転職する銀行員も珍しくありません。
金融機関は給与水準が比較的高いとされてきましたが、退職した銀行員の有力な転職先であるコンサルティング会社は金融機関より好条件を提示することが少なくないといいます。
とりわけデジタルなど専門的なスキルを持つ人材の獲得では、業界の垣根を越えた競争が生じています。
三菱UFJ銀行は22年から一部の新卒採用で、能力に応じた給与体系を導入しました。1年目から年収が1000万円以上となる可能性もあります。
総じて金融機関の就職人気は落ちています。マイナビと日本経済新聞が調べた23年卒の就職人気ランキング(文系総合)では、銀行で最も上位の三菱UFJ銀行でも21位でした。
3メガバンクがトップ10に入っていた5年前と比べて存在感が薄れています。
処遇の改善は急務の課題。
初任給の引き上げは最もわかりやすい改善策のひとつで、優秀な人材の流出防止と獲得を急ぐ狙いがあります。
現役社員の賃上げは?
現役社員の賃上げはどうなるのでしょうか。たとえば三井住友銀行の従業員組合は23年の春季労使交渉で2.5%のベースアップ(ベア)を要求する案を固めました。
詳細は労使交渉で詰めますが、会社側はベアと定期昇給、賞与増額、教育・研修など人的資本投資をあわせて実質で7%の賃上げに相当する処遇改善を実施する方針です。
初任給を5万円上げるのにあわせ、新卒と賃金の逆転が起きないよう若手の賃金も引き上げます。
大量の営業職員を抱える生命保険会社も処遇の改善に動きます。
日本生命保険は販売の中核となる営業職員の賃金を23年度に平均7%引き上げる予定。
第一生命保険は23年4月から営業職員と内勤職の計5万人程度の賃金を、ベアと定期昇給を合わせて平均5%程度上げる方針です。
優秀な人材をひき付けるには、こうした改善策だけで十分とは言えません。
これまで金融機関の人事制度は年功序列の色彩が強く、企業風土は保守的とされてきました。
意欲や能力が高い若手や中堅の登用を促し、それに見合った給与で応える人事制度で働く人のモチベーションを高める取り組みが重要です。