韓国は教育費が高い、就職難がある、結婚や出産を選ばない若者が多い。
韓国の出生率は世界最低
2021年に1人の女性が生涯に産む子どもの推定数である合計特殊出生率が世界最低の0.81となり、人口減少が深刻化する韓国。
18年の消滅危険度でワーストワンだった韓国の慶尚北道義城郡の農村に最近、都会育ちの若者が集い始めた。
若者を誘引するのは義城郡が19年に始めた破格の移住支援だ。
若者に起業の機会と住宅、福利厚生をまとめて提供する。
「今後は誰かではなく、私のために生きたかった」。
金礼知(キム・イェジ)さんはソウルでの会社員生活をやめて、1億ウォン(約1000万円)の創業支援金を元手に地ビール工房を開いた。
モデル地域の青年人口は18年比で35人増え、1000人を超えた。
南西部の全羅南道霊光郡では第1子出産時に500万ウォン、第2子は1200万ウォンと出産を重ねるほど増える祝い金を支給。
出生率は20年に2.46と全国一を記録した。
自治体の半数が『消滅危険地域』
手厚い出産奨励でも韓国全体の出生率低下に歯止めがかからない。
韓国政府は20年までの15年間に少子化対策に225兆ウォンを投じたが、韓国統計庁は21年に5175万人の人口は70年に3766万人に減ると推計する。
20~39歳の女性人口を65歳以上の高齢者人口で割った数が0.5を下回る「消滅危険地域」は21年に108と全国の市郡区の半数近くに迫った。
人口の過半が集まる首都圏も出生率低下が深刻だ。
ソウルは0.63と全国で突出して低い。就職難や重い教育費負担で、結婚や出産をしない人が増えている。
医師や弁護士、財閥社員――。
韓国の家庭は子どもにエリートコースを歩ませようと、教育費を惜しまない。
所得上位と下位で教育費の差10倍
韓国労働パネル調査によると、
高校生以下の子どもがいる世帯の塾などの私教育費は20年、月平均63万ウォンだが所得上位20%の世帯は136万ウォンと、下位20%の世帯の10倍以上になる。
名門大に入っても、希望どおり就職できるのは一握りだ。
韓国や日本、中国など出生率低下に直面するアジアの国々には共通点がある。
職業観や家族のあり方などで伝統的な社会通念が根強く残り、自由に生きたいと願う女性の価値観と衝突する。
韓国では女性の社会進出が進んでも、家事や子育ては今も女性の役目だ。
「夫と相談し、子どもを持たないと決めた」。大企業勤務の30代女性は語る。
経済協力開発機構(OECD)によると、韓国の女性が家事などの無償労働に費やす時間は男性の4.4倍、日本は5.5倍に上る。
出生率低下に歯止めをかけたフランスは1.7倍だ。
世界経済フォーラムが男女平等の度合いをランク付けした22年の「ジェンダー・ギャップ指数」でも日中韓は100位前後だ。
出産奨励策に偏った政策が限界を迎えた韓国政府は19年から省庁横断の「人口政策タスクフォース」を設置。
人口減を前提に社会の再構築に着手した。
検討テーマには女性の活用、事実婚など多様な家族のあり方を認める法改正も盛りこんだ。
破格の祝い金のような経済支援だけでは持続性はない。
男尊女卑や学歴信仰、職業の貴賤(きせん)――。
時代遅れの社会通念を変える覚悟がなければ、出生率改善と成長は両立できない。