基軸通貨の米ドルで日本を評価すると、昨年比で約3割も全ての価格が落ちている。
GDPも4位のドイツに抜かれ、平均賃金も韓国と並ぶ。
グローバル化の世界では、国力が3割落ちたと言って良い。
ドルでみた日本が縮小。GDPは30年前に逆戻り
ドル建てでみた日本が縮んでいる。
1ドル=140円換算なら2022年の名目国内総生産(GDP)は30年ぶりに4兆ドル(約560兆円)を下回り、4位のドイツとほぼ並ぶ見込み。
ドル建ての日経平均株価は今年2割安に沈む。
賃金も30年前に逆戻りし、日本の購買力や人材吸引力を低下させている。
付加価値の高い産業を基盤に、賃金が上がり通貨も強い経済構造への転換が急務だ。
経済協力開発機構(OECD)によると日本の今年の名目GDPは553兆円の見込み。
1ドル=140円でドル換算すると3.9兆ドルと1992年以来、30年ぶりに4兆ドルを下回る計算だ。
現時点での期中平均は127円程度だが、円安が進んだり定着したりすると今年や来年の4兆ドル割れの可能性が高まる。
ドルでみた経済規模はバブル経済崩壊直後に戻ったことを示す。
世界のGDPはその間、4倍になっており、15%を上回っていた日本のシェアは4%弱に縮む。
12年には6兆ドル超とドイツに比べ8割大きかったが、足元で並びつつある。
国力低下、円安止まらず。安い賃金、株買いも弱く
経済成長や景況感は円ベースのGDPに連動する。
今年のドル建てGDPが21年に比べ2割減るといっても、大不況というわけではない。
ただ、ドル建てでの国際比較は長い目でみた「国力」の指標になる。
一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は「通貨安は『国力』を低下させる。海外から人材を引き付けられなくなり成長を妨げる」と指摘する。
1ドル=140円なら平均賃金は年3万ドルと90年ごろに戻る計算だ。
外国人労働者にとって日本で働く魅力は低下している。
今年の対ドルの下落率は円が韓国ウォンを上回り、ドル建ての平均賃金は韓国とほぼ並ぶ。
11年には2倍の開きがあった。物価差を加味した購買力平価ベースでは逆転済みだが、市場レートでも並ぶ。
世界経済を揺るがすエネルギー高も通貨安の国には重くのしかかる。
原油先物の代表的な指標であるドル建てのWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は昨年末に比べ13%上昇した。
円建ての東京商品取引所の原油先物(中心限月)は33%とさらに上昇している。
かつての円安局面の特徴だった、外国人が企業収益拡大を期待して日本株を買う動きは見られない。
外国人は22年1~8月に日本株を2.7兆円売り越した。
日銀が異次元緩和を始めて急速な円安となった13年1~8月に9.1兆円買い越したのと様変わりだ。
「調達コスト増を価格転嫁できず、企業の利益が落ち込む例がある」(仏コムジェスト・アセットマネジメントのリチャード・ケイ氏)とマイナス面を警戒する。
外国人が運用成績の評価に使うドル建てでは日経平均は今年23%安と、年間の下落率で金融危機の2008年(42%)以来となっており、海外からみれば日本の資産は価値が急減している。
ITなど投資不足。高付加価値の産業へ転換が重要
円安は輸出競争力を高めるほか、海外からの直接投資や旅行者の誘因にもなる。
景気刺激の面では望ましい。
ただ、90年代以降の円安を志向する政策の下で、IT(情報技術)投資不足などで産業競争力は落ちた。
「円安が続かないと生存できない企業が増えて全体の生産性が低下し、賃金低迷を招いた」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)。
円安や金融緩和の支えに甘え、改革を怠れば国力低下は止まらない。