非課税世帯のほとんどが年金受給者。
現役世代も物価高には苦しんでいる。
不公平感は否めないし、断固反対する。
困窮の1600万世帯へ5万円給付
物価高対策として困窮世帯に5万円を給付する事業に予備費から8539億円を支出することが20日決まった。
現状では住民からの申請なしで支給する場合、住民税非課税か、児童手当の給付対象かの実質2パターンしかなく、今回は非課税世帯に配る。
いずれの線引きも対象の偏りや公平性に課題を指摘される。個人の所得データを活用して柔軟に対応する海外に比べ、日本の給付実務は進化に乏しい。
今回の給付金は所得が少なく住民税が非課税の約1600万世帯を対象とする。
全世帯の2割強を占めるとみられる。
申請を待たずに支給する「プッシュ型支援」が可能で、政府は「迅速性を重視すると、この基準になる」と解説する。
そもそも政府がプッシュ型支援をする場合、住民税非課税世帯か児童手当の給付対象世帯かの2パターンしか事実上、選択肢がない。
どちらも市町村が日ごろから給付対象を把握済みで、住民からの申請を待つ必要がないためだ。
非課税世帯は年金受給が大半
政府関係者によると、非課税世帯は年金受給者の4~5割が該当する一方、働き盛りの30~50歳は約1割にとどまる。
同じ収入でも年金受給者は収入への控除が大きく、非課税世帯になりやすい。
対象が高齢者に偏りやすく、基準として適切かは疑問が残る。
児童手当の給付対象は、夫婦のうち高い方の年収が960万円未満という所得制限が適切なのかという指摘がある。
住民税を納める世帯や独身者などは、実際には困窮していても線引きから漏れることになりかねない。
厚生労働省の担当者は「毎回だと不公平感が募る可能性がある」と認める。
不公平感を避けるには国民全員に一律給付するか、市町村の事務負担を覚悟で時間をかけて収入ごとに丁寧に線引きするしか方策がないという。
他国は工夫した給付対象の選定
欧米では国民個人の所得情報を行政サービスに生かすのは珍しくない。
例えば新型コロナウイルス下の英国。
英歳入関税庁は確定申告で集めたデータから受給資格者を抽出し、登録されている電子メールに連絡した。
申請者がオンラインで手続きすれば、6営業日以内に支援金が振り込まれる仕組みだった。
平時の所得の80%を補塡する仕組みで、所得に応じて支給額も異なる。高額所得者は外すなどの柔軟な設計が可能だ。
カナダにも所得に応じて、現金給付と税額控除を組み合わせて支援する「給付付き税額控除」という仕組みがある。
日本では2020年、コロナ下の緊急経済対策として全住民に10万円を定額給付した際、郵送かオンラインでの手続きが必要で、多くの混乱と事務負担を伴った。
迅速な給付を実施するため、住民のマイナンバーと預貯金口座をひも付ける「公金受取口座登録制度」や、マイナンバーを使った課税情報の活用促進などの環境整備が進みつつある。
ただ、国税庁の持つ個人の所得情報でいかに給付対象を効果的に選定するかや、国民の信頼をどう得るかなどの議論は途上だ。
大規模災害や経済危機など今後も巨額の国費を投じる給付金が必要になる状況が発生する可能性はある。
そのたびに一律給付か、非課税世帯などの既存の線引きか、しか選択肢がないのであれば納得感は得にくくなる。
必要な人に適切な額をいかに素早く届けるか。
デジタル技術もうまく活用し、柔軟に給付できるように改善していくことが、公平な負担と効率的な再分配政策の実現につながる。