ロシア・ウクライナ問題以降、西側諸国と東側諸国の冷戦が始まったと言って良い。
効率が悪くともエネルギーや生産拠点を自国で賄う必要がある。日本も同様の動きをすべき。
一方、米巨大企業は徴税強化で衰退するか。
脱炭素と生産回帰へ57兆円
米議会下院は12日、気候変動対策を盛り込んだ歳出・歳入法案を可決した。
再生可能エネルギーへの移行加速と国内への投資回帰を促す。
再エネの国内供給網の構築は、エネルギーの安全保障の意味も持つ。
歳入面では巨大企業の法人税の最低税率を設定し、IT(情報技術)大手などへの課税を強化する。
バイデン大統領が今週にも署名し、成立する。歳出は法案原案では4300億ドル(57兆円)規模。太陽光や風力などの発電や設備投資への税額控除を延長・拡充する。
法案は太陽光パネルや風力タービン、蓄電池など脱炭素に必要な製品への税額控除も導入する。
中国や東南アジアへの依存を減らし、米国への生産回帰を進める狙いだ。
太陽光や風力の発電を手掛ける米パターン・エナジーのマイク・ガーランド最高経営責任者(CEO)は「米国生産と、中国などからの輸入の間でバランスを取らなければいけない」と話す。
風力などは大型設備が必要で、輸送費の観点からも国内の生産基盤の再構築が重要という。
住宅向け太陽光発電を扱う米サンノバ・エナジー・インターナショナルのジョン・バーガーCEOも「米中対立が深まるなか、再生エネの分野で中国に過度に頼らない米国内の供給網が不可欠だ」と指摘する。
太陽光パネルはかつて米国が高シェアだった。中国などアジア各国に押され米国内の基盤が弱った。
米シンクタンクのエナジー・イノベーションなどによると、2030年の温暖化ガス排出量の削減幅は従来政策のままなら05年比で2~3割だが、法案成立で約4割に拡大する。
30年に5割削減の目標に向け前進する。
巨大企業への課税を強化
歳入面での法案のポイントは、巨大企業の法人税の15%の最低税率の設定だ。
大企業が税控除の活用などで、実効税率を低く抑えている現状を問題視した。
日本の国税庁にあたる米内国歳入庁(IRS)も機能を強化する。企業の自社株買いにも1%課税する。
法案全体でみれば財政支出を大きく上回る歳入増が見込まれ、財政健全化の効果が大きい。
米議会は法案修正後の予算規模を明らかにしていないが、米ペンシルベニア大学の試算では10年間で政府債務が2640億ドル削減される。
バイデン政権は家庭の医療費とエネルギー代が減らせるとしてこの法案を「インフレ抑制法案」と呼ぶが、疑問の声もある。
23~24年は歳出額と歳入額がほぼ拮抗する見通しのためだ。
米紙ニューヨーク・タイムズは多くのエコノミストが物価高への効果は小幅なうえ、実感できるまで数カ月から数年はかかると予想していると指摘した。
野党・共和党は、今回の法案が物価上昇にほとんど効果がないとして反発した。政府の支出が増え、徴税強化で米国民の生活を圧迫すると批判を強めている。