鈴木財務相㊨に建議を手交する倉経団連会長(財制審会長)㊧(29日、東京都千代田区)
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は29日、政府の少子化対策の財源確保へ歳出改革の徹底を求める建議(意見書)をまとめた。
75歳以上の医療費を巡って、窓口負担を原則2割に引き上げるよう検討すべきだと要請した。
高齢者の負担増には反発も強く、議論の行方は見通せない。
「財源負担をこれから生まれるこどもたちの世代に先送りすることは本末転倒だ」。
建議では少子化対策の財源についてこう主張した。
赤字国債に頼らず、安定財源を確保するよう政府に改めてクギを刺した。
政府は児童手当の拡充などの対策に地方分も含め年3兆円ほどの予算が必要だとはじく。
すでに確保した予算を最大限に活用して0.9兆円を集める。
さらに社会保障費の歳出改革を続け、5〜6年かけて計1.1兆円を捻出する。
なお足りない分は、企業や個人の医療保険料などに上乗せした「支援金」として集める構想だ。
歳出改革で生まれる財源が上振れすれば、それだけ支援金は少なくて済む。
財制審は「全世代型社会保障の考え方に立って医療・介護などの歳出改革を断行する」ことを求めた。
全世代型社会保障とは年齢ではなく能力に応じて負担し、必要な人たちへの給付に重点を置く。
具体的には75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を原則2割にすることについて「前向きに検討される必要がある」と明記した。
現状は原則1割負担で、所得に応じて3割まで上がる仕組みとなっている。
個人の負担能力を判断する際に「マイナンバーを活用しつつ保有資産や金融所得を勘案することを検討すべきだ」とも盛った。
こうした制度改正のメニューは少子化財源を確保するための歳出改革のたたき台としての意味を持つ。
少子高齢化で社会保障費が膨張し財政悪化に歯止めがかかっていないことも背景にある。
財政制度分科会の会長代理を務める日本郵政の増田寛也社長は会合後に記者会見し、「社会保障制度の持続性は少子化対策が浮上する前からの課題だ。
先送りしてきたテーマに取り組んでもらいたい」と注文をつけた。
もっとも、自民党の一部や日本医師会からは制度改革に反発の声が上がっている。
日医は物価上昇に対応するには原資が必要だと主張し、医療の対価にあたる診療報酬を24年度に引き上げるよう要望している。
財制審は29日の建議で反論した。新型コロナウイルス感染症への対応のため医療機関には多額の補助金が交付された。
病院の財務状況は20年度から21年度にかけて純資産が事業費の5%の規模で増加していると指摘。「賃金・物価高にはこうした資産を活用すべきだ」と強調した。
財制審は財政再建のお目付け役と言える。政府が6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)や年末の予算編成に向けて、例年春と秋の年に2回、建議をまとめる。
ただ必ずしも政府の政策に反映されるとは限らない。
過去にも後期高齢者の窓口負担の引き上げを検討するよう訴えてきた。
公的年金の受け取り開始年齢の引き上げを提起したこともある。野放図に財政支出が膨らまないように警鐘を鳴らしてきた。