日銀は2022年に長期金利の上限を引き上げた。
23年の総裁交代で金融政策を本格転換する可能性も。
では今から住宅ローンを借りる場合、変動と固定、どちらが返済額を抑えられるのか。
そもそも、変動金利はこれから上がるのか――。プロの見解を聞いた。
まず押さえたいのが、変動金利と固定金利の決まり方。変動は「日銀の政策金利」、固定は「10年物国債の利回り」の影響を受ける。
こうして決まった「基準金利」から「優遇金利」を引いたものが「適用金利」となる。
優遇金利は割引のようなもので、個人の信用力や金融機関によって異なる。
固定金利(フラット35)の水準は、2021年末の最低が約1.3%だったが、22年12月時点では1.6%以上まで上昇した。
対して同期間の変動金利の最低水準は、約0.4%でほぼ横ばいだ。
ファイナンシャルプランナー(FP)の関根克直さんは、「固定金利は、国債市場の参加者の思惑に左右されやすい。
『日本でも金利が上昇する』との見方から、利回りが上昇している」と話す。
FPの峰尾茂克さんによると、メガバンクの変動の基準金利は、政策金利に連動する「短期プライムレート(銀行が企業に融資する際の最優遇金利)」に1%上乗せした値になる。
「短プラ」の最頻値は、2009年から1.475%と一定で動きがない。
もちろん今後は政策金利が上昇する可能性がある。
その場合、変動と固定ではどちらが返済額を抑えられるか。
関根さんが「変動金利が5年で0.25%ずつ上昇した場合」でシミュレーションした。
変動は足元の最低金利より高く、固定は低く設定したが、変動の方がお得になる結果になった(下図)。
「好景気でもなければ、シミュレーションのようにテンポよく金利が上がるとは考えにくい。利上げで景気が冷えれば利下げする可能性もある」(関根さん)。
変動型で使える秘策
ここまでは「変動金利型の方が利息が抑えられる可能性が高い」というプロの見方を紹介した。
ただ、将来の金利の上昇幅や繰り上げ返済の仕方によっては、固定の方が得になる場合もありそうだ。
変動か固定かを選ぶ際、いくつかのチェックポイントがある。
まずは心理面でのプレッシャー。
「金利上昇が怖く、夜も眠れないという人はいる。固定で『安心を買う』のも手」と関根さん。
一方、「家計に余裕がないので、より金利の低い変動で借りる」という発想も危険だ。
金利上昇で返済額が増えれば、基本生活費を削ることになる。
そこで峰尾さんは、「どんな人も『固定で借りるつもり』で返済計画を立てるのがコツ」だと話す。
つまり、固定で借りられないような規模のローンを組むことは避ける。
変動で借りたとしても、固定との返済差額分を貯蓄に回す。
この貯蓄は、いざ変動金利が上昇した際に、繰り上げ返済に充てることができる。
繰り上げ返済でローン残高が一気に減れば、金利上昇の影響を受ける元金が減り、返済額の増加が抑えられる。
では既に固定で借りている人は、積極的に借り換えすべきだろうか。
借り換える時は、費用の確認も重要だ(下図)。
また、借り入れ残高や残返済期間が少ないと、費用を踏まえればお得にならない可能性もあるので注意が必要だ。
「がん団信」の違いに注意
住宅ローン選びで金利の他にチェックしたいのが、加入できる団体信用生命保険の内容だ。
FPの平野雅章さんは「金利上乗せがある7大・8大疾病の特約は金融機関によってそれほど大きな差はないが、がん団信の違いには注意したい」と話す。
「がんは通院の長期化も少なくない。治療費がかさむ上、収入減の恐れがある。がん団信を活用すれば、民間のがん保険より費用を抑えながら手厚い保障を得ることも可能」(平野さん)
ネット銀行は、金利の上乗せなしでもがん団信が付いていることが多いのが魅力だ。
「有料の7大・8大疾病団信については、『3大疾病以外の疾病では就業不能状態の継続が1年以上』などと保障の基準が厳しいことが多い。また盲点となりやすいのが、うつなどの精神疾患やけがで働けなくなるケースだ。これらのリスクについては、民間の就業不能保険で備えておくのも手」(平野さん)