日銀は16~17日に開いた金融政策決定会合で、大規模緩和を継続する方針を決めた。
景気回復は道半ば、緩和の維持継続
景気回復はまだ道半ばで、緩和縮小は時期尚早とみているためだ。
ただ、世界の主要中銀は一斉に利上げに動いており、緩和維持には円安圧力を強めかねない危うさがある。
日銀は声明文で為替市場を「注視」すると明記したが、金融緩和のコストも無視できなくなっている。
黒田東彦総裁は17日の記者会見で「日本経済が回復途上にあるなかでしっかりと支えていく」と語った。
日銀は長期金利を0%程度、短期金利をマイナス0.1%に誘導する長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)をこれまで通り継続すると決定。
年12兆円を上限に、必要に応じて上場投資信託(ETF)を買い入れる措置も維持する。
主要各国は金融引き締め
ロシアのウクライナ侵攻による資源高などでインフレ圧力が強まり、世界の主要中銀は利上げを急いでいる。
米連邦準備理事会(FRB)が15日に0.75%の利上げを発表したのに続き、16日には英国やスイスも利上げに動いた。欧州中央銀行(ECB)も7月に11年ぶりの利上げに踏み切ると予告している。
日銀が動かないのは、国内総生産(GDP)が新型コロナウイルスの流行前の水準に達しておらず、景気回復の勢いが依然弱いためだ。
日本経済は需要不足の状況が続いており、賃上げも広がりを欠く。
物価上昇率が8%を超える米欧に比べれば、日本の上昇率は2%程度にとどまるという事情もある。
米欧の金利上昇で日本にも上昇圧力
ただ、動かぬ日銀は市場のきしみを増幅させている。
日銀の長短金利操作は10年債利回りをむりやり0.25%以下に抑え込む政策だが、米欧の金利上昇で日本の長期金利にも上昇圧力がかかり始めている。
10年債利回りは17日には一時、0.265%と日銀が定める上限(0.25%)を上回った。
これは日銀が買うと約束している水準よりも安く市場で国債が売買されていることを意味し、日銀の緩和継続に市場参加者が疑念を抱いている証拠といえる。
残存期間が7~9年の国債の利回りが10年債よりも高くなるという異例の金利逆転(逆イールド)も起きた。
海外勢は「円安によるインフレが日銀を政策修正に追い込む」(英ヘッジファンドのブルーベイ・アセット・マネジメント)とみて、国債売りを急いでいる。
市場では日銀が0.25%という上限を遠からず変更するとの見方がある。黒田総裁は会見で「上限を引き上げれば金融緩和効果が弱まるので、そういったことは考えていない」と真っ向から否定した。
海外勢にいったん弱みを見せれば、つけ込まれ続けるとの考えが背景にある。
緩和継続のコスト
ただ、緩和継続のコストは着実に高まっている。日銀はこの1週間だけで10年債3銘柄を6.7兆円分購入した。
これは市場に出回る同銘柄の債券(14兆円)の半分近くに相当する。
日本経済研究センターは、日銀が長期金利を0.25%に抑え続けようとすれば、国債の保有残高を現在の500兆円強から120兆円増やす必要があると試算する。
金利差による円安圧力
日銀が長期金利を抑えれば抑えるほど、米欧との金利差が広がって円安圧力が強まる問題もある。
黒田総裁は会見で「急激な円安は経済にマイナス」と語ったが、緩和継続の姿勢との矛盾は否めない。
円相場は今週、1ドル=135円台半ばと24年ぶりの安値を付けた。
円安は輸入物価の上昇を通じて物価を押し上げ、企業や家計の負担感を高める。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは仮に140円台半ばの円安が続けば、物価上昇率は一時的に3%程度まで上昇するとの試算をまとめた。
日銀は緩和継続のメリットとコストを勘案して政策を決めているが、そのバランスは大規模緩和が長引くにつれて微妙になりつつある。
日銀が未来永劫(えいごう)緩和を続けられるわけではないこともまた明らかだ。
所見
日銀は無限に金融緩和を続けられない。
海外勢が日銀の政策変更を予想して、虎視眈々と日本市場を狙っている。
黒田総裁も海外勢につけ込まれない、と緩和維持のトーンを変えない。
1ドル150円台などになれば、さすがに変更するか。マネーゲームに庶民は巻き込まれている。