文章や画像を自動生成する人工知能(AI)への投資が活発になっている。
米マイクロソフトが投資する米オープンAIを筆頭に多くのスタートアップが巨額の資金調達に成功。
世界の生成AI企業の価値は計約480億ドル(約6.5兆円)と2年で6倍に拡大した。
影響力を高める新技術を使いこなせるかは国や企業の成長力に響く。
「我々の使命は書き手に新たな力を与えることだ」。
イスラエルの新興企業「AI21 Labs」は1月、AIを活用した文章作成支援ツールを発表した。
2022年に6400万ドルの資金調達をまとめ、プロのライターから学生まで幅広く使えるツールを開発した。
生成AIは一般的に、ほしい内容を入力するとAIが膨大なデータに基づき即座に答えを示す。
ブームに火を付けたオープンAIの「ChatGPT(チャットGPT)」だけでなく、マーケティングのコピーを作る米ジャスパーAI、商品説明を作成するカナダのコーヒアなどサービス内容の幅が広がる。
プログラミングのコードを書いたり、実験用に匿名性の高いデータを作成する技術もある。
英スタビリティーAIの「ステーブル・ディフュージョン」はプロ顔負けのイラストを瞬時に描く。
こうした新興企業に大手テック企業やベンチャーキャピタルが熱い視線を注ぐ。
オランダの調査会社ディールルームによると、22年の生成AI企業への投資額は世界で21億ドルと20年に比べて10倍に急拡大した。
資金調達額などから推計される企業価値は主要な約100社の合計で480億ドルと20年末比6倍になった。
過半を占めるオープンAI(推定290億ドル)以外にも、ジャスパーAIなど5社が10億ドル以上の「ユニコーン企業」に成長している。
後押しするのは半導体技術の飛躍的な向上だ。
生成AIの性能はネット上の膨大なデータをどれだけ学習できるかが左右する。
チャットGPTの基盤にあるAI(GPT-3)は10の23乗の3倍と天文学的な回数の演算をこなした。
1980年代に開発された音声合成技術「NETtalk」と比べると数兆倍に達する。
マイクロソフトがオープンAIへ数十億ドルの追加投資を決めるなど、マネー流入で開発競争が激化する傾向が続く。
全般的にベンチャー投資が冷え込む中でも勢いは衰えない。
開発が加速すれば利用の裾野も広がる。
米アクセンチュアの「AI活用浸透度」をみると、現状はテクノロジー業界が抜け出しているが、24年までには多くの業界が追いついてくる見通しだ。
AIは流ちょうな会話で顧客に対応し、金融や法律の分野では専門文書の作成を代行する。
医薬品開発では膨大な実験用データを生成して研究を加速させる。
どれだけ生成AIを効果的に活用できるかは企業の成長力を左右する要因になる。
アクセンチュアのサンジーヴ・ヴォーラ氏は「あらゆる業界の経営陣にとって必須課題」と指摘する。
日本にとってもAIの活用は労働力不足や低迷する生産性といった長年の課題への有力な対策になる可能性がある。
一方、AIの生成した文章には誤りが含まれることがあるなど、実際に利用を進めるには課題も多い。
AIを使う場面が増えれば、顧客に不利益を与えたり法的な責任が発生したりするケースも増える恐れがある。
台頭するテクノロジーの長所と短所を見据え、自社の製品やサービスの競争力に着実に結びつける力が試される。