副業で赤字が出たとする虚偽の申告書類を作成し、給料から天引きされた源泉徴収税額の還付を受けようとする不正が増えている。
中には会社員がSNS(交流サイト)上で不正代行業者に申告書の作成を依頼する事例もある。
2月16日から確定申告が始まるのを前に、国税当局の幹部は「申告書に不審な点があれば積極的に税務調査を行う」などと厳しく対応していく方針を示している。
中部地方に住む30代の男性は、確定申告の書類上は実在する企業に所属し源泉徴収をされていると装っていた。
他方、小売事業を手掛けて多額の赤字があるとして、源泉徴収された税金の還付を申告していた。
名古屋国税局が調査すると、男性は企業に所属しておらず、赤字なども全て虚偽だったことが判明。
源泉徴収票などを自ら偽造していたことも発覚した。重加算税を含めた追徴税額は約2290万円にのぼったという。
会社員は通常、給料をもらう際に、会社側が所得税分を天引き(源泉徴収)する。
後日、会社が会社員に代わって所得税を納付する。
仮に、この会社員が副業を行っていて赤字だった場合、一定の条件をみたせば給料と副業の赤字を相殺(損益通算)することが可能で、天引きされた税金の還付が受けられる。
最近、増えているのはこの還付制度を利用した不正行為だ。
国税庁によると2022年6月までの1年間で、国税当局が追徴課税した不正還付は前事務年度比約5%増の191件。
重加算税を含めた追徴税額は計約2億円だった。
不正還付の申告件数は2018年に比べて約2.5倍になっているという。
副業ブームや若者がSNS上で指南役などとつながり、安易に不正に手を染めやすくなったことなどが背景にあるとみられる。
熊本国税局が調査した事例では、20代の男性会社員は実際に大手企業で働き、給与を得ていた。
SNSを通じて不正還付の指南役とつながり、手数料25万円を支払って虚偽の申告書を作成してもらっていた。
会社員は指南役に申告に必要な情報を提供し、指南役がその情報に基づいて虚偽の申告書を作成、実際に還付を受けていた。
男性と指南役に直接の面識はなく、無料通話アプリでやり取りを行っていたという。
同局の調査で不正が判明し、重加算税を含めて約174万円が追徴課税されたという。
男性は調査に「知人もやっているので大丈夫だと思った。
簡単にお金が手に入ることに魅力を感じた」などと話したという。
国税庁の山県哲也・個人課税課長は「所得税の不正還付は国庫金の詐取とも言える許しがたい行為。
申告書の厳格な審査を行い、積極的に税務調査する。
詐欺などの犯罪行為があれば、刑事上の責任の追及も行う」と話している。