『好き』はアンチもうむ
元陸上選手の為末大氏が自身のニュースレターで意外なことを書いていた。
「既存のスポーツシステムはスポーツ好きもうみましたが、スポーツ嫌いの方もたくさんうんできました」。
スポーツは、アスリートの超人的な技で感動を生んだり、心身の健康を増進したり、プラス面が多い。その第一人者でもある為末氏がなぜ?
同氏によるとスポーツは「社会的な価値観を増幅させる機能」があり、苦手な人や権威的な体育会の体質で嫌な体験をした人を遠ざけてしまうことも理解する必要があるという。
『お酒』もアンチ市場ができた
これはスポーツ以外にも通じる。「楽しいのが当たり前」と支配的な価値観が強まりすぎると、「アンチ」を生む。
環境志向の高まり、縦型社会の揺らぎなど、社会・経済は激変している。当たり前と思い込んでいる価値観に対して「嫌い」が顕在化し、市場を揺さぶる。
例えばお酒。「飲みニュケーション」として成長してきたアルコール市場では、ノンアルコール、あるいは微アルコール派が増えてきた。
新型コロナウイルスの感染拡大で飲酒の場が減り、リモートワークが拡大。
すると、酒、あるいは酒でつながる文化に嫌気がさしていた層が顕在化し、アンチ市場が広がった。
実際に酒を飲めない、あえて飲まない人は約4千万人ともいわれ、酒類メーカーも嫌われない努力に余念がない。
『ファッション嫌い』を掴んだユニクロ
ファッションの歴史も似ている。百貨店などでアパレルが幅をきかせ、特に1980年代から90年代にかけて「おしゃれは、いいことだ」的な価値観が急速に広がった。
そしておしゃれが苦手な人は「ダサい」と言われるようになる。
ここで登場したのがユニクロだ。シンプルで、誰でも簡単にコーディネートできるし、他人との差を考えなくて済む。振り返るとユニクロの成長は多くの「ファッション嫌い」をつかまえたことだろう。
『レシピを考える』が嫌になった
日常消費のスーパーでも「嫌い」をつかみ、実力企業を育んだ。
主婦、あるいは主夫にとって日々の食事や弁当を作る上で、スーパーでの買い物は欠かせない当たり前の行動だった。
しかし「買い物は面倒」「レシピを考えるだけで嫌いになる」消費者が増えていることに気づいたのが、ヨークベニマルやヤオコーだ。
日々の献立作りの悩みを解消するミールソリューションをいち早く導入し、メニュー提案型の売り場作りを推進。
今では当たり前の光景だが、顧客の悩みを先に発見した2社は今も業界のリーダー的存在だ。
『高カロリーを嫌う顧客』を発見
キューピーは「高カロリーを嫌う顧客」を想定し、カロリーハーフタイプを約30年前に発売した。
社内でも「マヨネーズを否定することにならないか」と反対の意見も多かったが、今は約30%がカロリーカット型でアンチ派をうまく取り込んだ。
もちろんユニクロなど今の強者も環境対応などで手間取ると、一気に「嫌い」を増やしてしまう。嫌いをつかむか、嫌われることを未然に防ぐか。押しつけより、自己否定を辞さないアンチへの先回りこそが消費ビジネスを制する。
所見
日本も多様な考えを受け入れる世になってきた。
『アンチお酒』の市場が4千万人もいると、誰がわかっていただろう。
常識にとらわれないマーケティングが出来る人がチャンスを掴む。