米国の利上げ加速の観測が金融市場を揺さぶっている。米国株の高値からの下落率は2割を超え「弱気相場入り」した。
リスク資産から資金流出
暗号資産(仮想通貨)も急落し、仮想通貨の時価総額は1兆ドルを切った。
インフレを抑えるには景気を犠牲にするほど利上げを急がなければいけないとの見方から、リスク資産から資金が急速に流出している。
「景気に左右されやすい株を買える状況ではない」(三井住友DSアセットマネジメントの石山仁氏)――。
世界の株式市場では利上げが景気を急速に冷やす「オーバーキル」への懸念から売りが強まった。
米国株▲22%、日本株▲13%
米S&P500種株価指数は13日に前週末比4%と大幅に下げ、1月3日からの下落率は22%に達した。
一般消費財・サービスと不動産がともに5%と景気悪化の影響が大きい分野が大きく下げた。
日経平均株価は昨年の高値からの下落率は13%と円安を支えに踏みとどまっているものの、海外投資家が運用成績に使う「ドル建て」では14日に年初来安値を更新し、昨年高値からの下落率は約3割となった。
リスク資産の売りは連鎖する
米連邦準備理事会(FRB)による利上げは、景気に打撃になる前にまず緩和マネーに支えられてきたリスクの高い資産価格に響く。
暗号資産ではビットコイン価格が13日に18%下落し、14日も一時8%超下落した。
情報サイトのコインマーケットキャップによると、世界全体の仮想通貨の時価総額は1兆ドル(約130兆円)を下回った。21年11月のピーク(2兆9700億ドル)から約7割減少した。
リスク資産の売りは連鎖しやすい。
仮想通貨などは株や債券などを担保に運用されることが多いためだ。クレディ・スイス証券の松本聡一郎氏は「下落局面で担保の株や債券も売られ、市場が連動して下がることが増えた」と指摘する。
米国債で『逆イールド』発生
景気不安は米債券市場に顕著だ。
13日には2年物国債利回りが10年物を上回る「逆イールド」が2カ月ぶりに発生した。
2年債は金融政策を反映しやすく、利上げ加速の見通しを背景に利回りが急上昇した。
一方で10年債は中長期の景気動向を反映するため先行き懸念から2年債ほど利回りが上昇しない。
一般に逆イールドが生じると1~2年後に景気が後退しやすいとされる。
2000年前後のIT(情報技術)バブル崩壊や08年のリーマン・ショック発生の前にも逆イールドとなった。
大和証券の岩下真理氏は「逆イールドが発生した背景には、エネルギーと食料価格の高騰による物価高は、金融政策だけで抑えられないとの懸念もある」とみる。
利上げを急いでもインフレは沈静化しにくく、さらに利上げを迫られ、景気を犠牲にしかねない。
南欧債から資金流出、金利上昇
世界経済の弱点を浮き彫りにするような値動きもみられはじめた。
欧州中央銀行(ECB)の買い支えがなくなるとの懸念から南欧債からの資金流出が続いている。
イタリアの10年債は14年1月以来となる4%台に上昇、月初の3.1%台から大幅上昇した。
スペインも14年5月以来となる3%前後を付けるなど金利上昇が続いている。
米モルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマン最高経営責任者(CEO)は「米国の景気後退の確率は50%」と述べた。
家計には余力があるため景気が急激に落ち込むことはないとの見方も多いが、利上げの行方が不透明になり、リスク資産の下落は長引きそうな情勢になってきた。
所見
アメリカの緩和マネー撤退で、リスク資産が急落している。
裏を返すと、緩和マネーが戻って来れば大きく上昇する。
しばらくはインフレ対策で金融引き締めをするが、大統領選前後など景気対策時は緩和マネーが発動する。
今が仕込みのチャンスである。