賃金が上がらなければ、消費は増えない。
手元資金に余裕がある企業は、給料をどんどん上げてほしい。
結果的に消費増から、企業収益も増える。企業が先に踏み出してほしい。
物価高への対応でベアが相次ぐ
物価高に対応しようと基本給を大幅に引き上げるベースアップ(ベア)を今夏に実施する企業が相次いでいる。
AGCは14年ぶり、住友化学も4年ぶりに実施した。
優秀な人材のつなぎとめに賃金増が必要と判断した。
家計が支出を増やして企業の収益を押し上げ、その成長の果実を企業と家計が分け合う。
こうした好循環を生むためにも賃上げが欠かせない。
連合の最終集計によると、2022年春季労使交渉でベアと定期昇給(定昇)を合わせた平均賃上げ率は前年比0.29ポイント上昇の2.07%。
夏に賃上げを実施する主要企業はこの水準を大きく上回る。
AGCは7月に平均6307円のベアを実施した。
全職種対象のベアは08年以来となり、定昇を含まない賃上げ幅は1万2119円(賃上げ率は3.92%)だ。
住友化学も7月に平均3000円のベアを実施した。18年以来4年ぶりのベアで、定昇と合わせた賃上げ率は3.7%だ。
ディスコも7月に定昇と合わせ8.5%の賃上げを実施した。
大塚商会は7月から正社員の基本給を一律1万円引き上げた。
平均2.72%のベア率になる。
嘱託社員や契約社員の基本給も2.72%増を目安に賃上げする。
全職種対象のベアは少なくとも株式上場した00年以降では初めてという。
急速な物価上昇
大幅な賃上げの背景にあるのが急速な物価上昇だ。
総務省によると、賃金の実質水準を計算する基準となる物価(持ち家の家賃換算分を除いた総合指数)は直近の7月に前年同月比3.1%上がった。
第一生命経済研究所は22年度の家計負担(2人世帯以上)が年約10万円増えると試算する。
物価高に一時金などで対応する企業もあり、サイボウズは今夏、「インフレ特別手当」として国内勤務者に最大で15万円の一時金を支払う。
家電量販大手のノジマも「物価上昇応援手当」を7月から毎月1万円支給する。
長くデフレ下にあった日本では企業の売り上げが伸びにくく、賃上げが進まないことが個人消費の足かせになり、経済が停滞する悪循環に陥っていた。
経済協力開発機構(OECD)によると、国ごとの生活水準を反映した購買力平価ベースで日本の21年の実質賃金は34カ国中24位にとどまる。
00年からの伸び率は7%と、上位の米国(30%増)やドイツ(19%増)と比べ伸び悩んでいる。
ただ、東京証券取引所の全上場企業(前の期と比較可能な約2300社)のうち、22年3月期に純利益が最高益だった企業の比率は3割に上った。
企業の手元資金は足元で過去最高を更新し続ける一方で、労働分配率は歴史的低水準にある。企業の賃上げ余力は十分にある。
ベアで社員の生活を守る意識は企業にじわり広がりつつある。
日本経済新聞社の22年の賃金動向調査ではベアの平均金額(2368円)は調査を遡れる10年以降で過去最高だった。
賃上げは継続性や安定性も問われる。
今秋以降に本格化する23年春季労使交渉で賃上げが物価上昇に追いつかないようだと、消費がしぼみ、企業収益が落ち込む負の循環に陥るリスクもある。